第40話 展開に

「——というわけで、あの人の……プライベートのことを教えてほしいの」

 レオンと別れ、校舎に足を踏み入れたテトラは自分の教室に。

 それから一人、ぽつんと窓から景色を見ていたクラスメイト——伯爵家のアイラ・フリアに声をかけていた。


「んふふ、そのような質問をされるということは、二人きりの週末アレは楽しめたということですね」

「っ」

「そうですね。レオンさんの促しがあったのならば、喜んでお教えいたしますが……」

 なにやら物惜しげに外を見つめていたアイラの姿はもうない。

 スイッチが切り替わったように明るい雰囲気に。妖美な笑みを浮かべ、言葉を続けたのだ。


「テトラ様は約束、覚えておりますよね? 週末の件、わたしの言う通りになったのなら『一日レオンさんを貸す』と」

「そ、その件はもちろん覚えているけれど……彼はあたしのものだって断っ——」

 途端である。テトラは言葉を詰まらせる。

 アイラの目の光がなくなったことに気づいて。

 そして、目が潤んでいることにも気づいて。

 重たい感情がいくつも混合したような、言葉では表現できないような表情である。

 

「えっと……あ、あなたの気持ちはわかるけれど、一日を呑むことはやっぱりできないわ。あの人がいなくなると……あたしが困るもの」

 改めて熟考した結果であり、伝えた内容はレオンの前では絶対に言わないこと。

 素直になれないだけで、彼の働きには十分に感謝している。

『ちょろい』と思われても仕方がない心境の変化だが、今はもう彼なしの生活は考えられないテトラなのだ。


「アイラ嬢のお願いを叶えるとするならば、あの人を呼んだあたしのお部屋に来てもらうか、あの人を連れてあなたのお屋敷にお邪魔させてもらうかのどちらか、になるわ」

「であればお貸しいただけるのですかっ!?」

「まあ……半日程度なら、だけれど……」

「かっ、感謝いたしますっ」

 宝石のような目をキラキラと輝かせるアイラに苦笑する。 


 正直に言えば、1時間とて誰の手にも彼を渡したくないテトラ。

 独占欲がないとは言えない。だが、それ以上に『自分よりも素敵な相手だ』と『今よりもやりがいがあるだろう』と感じてしまうはずのレオンだから。いや、そう感じさせてしまうほど魅力のない自分だから。


 だが、休日の件でアイラにアドバイスをもらった。友達にもなりたい。レオンのプライベートのことも教えてほしい。

 全てのお礼、条件を満たすにはこれが一番なのだ。

 

「っと! お話を戻しを戻さなければ、ですね。テトラ様はレオンさんのプライベートをお知りになりたいのですよね?」

「ええ。あの人自ら驚くって言っていたから、仕事外の姿とか、普段の余裕を崩すことができるような……そんな情報を知りたいわ」

 専属にはただ支えになってくれることだけを求めていたテトラだが、今はそうでないからこその質問。


「ふふ、レオンさんの言うことは間違いないかと。なんせお仕事外の休暇中の姿でしたら、それはもう普段とは別人のような姿になりますから」

「えっ……」

「声のトーンが低くなりますし、のんびり屋さんにもなりますし、なにより目つきがとっても悪くなりますから」

「あ、あの人が? 本当に?」

「はい。ですが、わたしはそのギャップにより心を……というのは冗談ですが、珍しい姿ですから一度見たら忘れられないものになりますよ」

「…………」

 正直、そんな彼の姿はなにも想像ができない。

 が、アイラの頬が朱色に。表情と声色には高揚が露わになっている時点で真実なのだろう。

『その姿により心を奪われた』ことがわかるほど。


「あと、レオンさんは可愛い生き物が大好きですね。手芸も嗜まれているので、自作された猫さんや犬さんのぬいぐるみなどお部屋に飾っているかと」

「…………え、ええ? な、なんだか、本当に信じられないお話ばかりだわ」

「ふふふ、そのお気持ちわかります。当時はまだまだ子どもだったからこそ、レオンさんのお部屋に突入をして気づいたことでしたから」

 懐かしむように目尻を下げるアイラを見て、テトラはつくづく思う。

『どれだけ好かれているのよ』と。

 自分よりもレオンのことについて知り得ているのだから当然なのかもしれないが、なぜだかモヤモヤが膨らんでいく。


「もしぬいぐるみを見て気に入ったのであれば、レオンさんにお作りしてもらえるかと。わたしは3つ作ってもらいましたので」

「ふぅん……」

「他にもいろいろとございますが、ひとまずは“ぬいぐるみ”を突くとよい表情が見られるでしょうね」

「ありがとう、それは楽しみだわ。あの人、いつも余裕綽々であたしのことからかってくるから」

「……も、もう、なのですか?」

「ん? 『もう』って?」

「あ、いえ……。なんでもございません」

 この瞬間、黒いモヤをさらに溜め込んだことをテトラはしない。

 加えてレオンの最大の弱点を知っているアイラだが、それはまだ秘密。

 テトラよりも交流のあるフローリアにだって教えていないこと。独占していることであった。

 

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【1巻12/19発売】お世話した王女様、ずっとくっついてくる 夏乃実 @Budoutyann

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