第39話 知る術

「あなたの弱点を教えなさいよ」

「はい?」

「だから、あなたの弱点を教えなさいって言っているの」

 もろもろの準備を済ませ、馬車で学園に移動中の今。

 眉間にしわを寄せ、細い腕を組んだテトラから追求を受けるレオンがいた。


「ひとまず……はしたないですよ。テトラお嬢様」

「そ、そのようなことわかっているわよ。冗談を言っているわけではないことを伝えているだけよ」

 一瞬、怯んだテトラは口を尖らせて組んだ腕を解く。が、追求の圧は変わらない。


「ほら、早く」

「詳しく教えていただきたいのですが、『弱点』とはどういったものを指すのでしょうか」

「あなたねえ、わかっていて聞いているでしょ」

「検討違いだった場合には、縮こまる思いをいたしますので」

「あなたの余裕がなくなるようなことについてよ」

「やはりですか」

「このやり取り、絶対必要なかったでしょ」

 今朝の流れを踏襲したものなのだ。

 当然のツッコミであり、同情を含むような笑みを浮かべたレオンは、目を伏せて伝える。


「大変恐縮ですが、自分の口からはお答えしかねます。ご命令とあらば、こちらに拒否権はありませんが」

「……じゃあいいわよ、もう」

「はは」

 先ほどの強い追求欲はどこへ行ったのか、もう興味を失ったようにそっぽを向くテトラ。

 本来ならば気まずさに包まれるところだが、その空気が流れ込まないのは、レオンの手腕によるだろうか。


「テトラお嬢様らしいですよね、本当に」

「え?」

「躊躇ったことに関しての強要をなさらないこと、ですね」

「はあ……。それは当たり前のことでしょ。嫌なことを無理にさせる主人がどこにいるのよ。あなたにはお世話になっているのだし」

 ため息を吐いて言い切ったテトラだが——言い切ってハッと目を大きくする。

 口が滑ったことを隠すように、ボソリ。

「一応は」と、頬を赤らめながら付け加えた。


「そのような事実があったとしても、世の中には数えきれないほどに溢れておりますので。身分差というものはそういうものですから」

「じゃあよかったわね。変わり者の主人あたしで」

「はい、お優しいご主人様で嬉しく思います」

「……」

「ちなみに、自分の弱点につきまして——」

「もういいって言ったわよ? そういう打算があって、さっきはあんなことを言ったわけではないのだから」

 首を傾げての返答。次に耳を塞ごうとするが、それよりも早く口角を上げて声を出すレオン。


「——アイラ様やフローリア様にお聞きするのはどうでしょうか。こちらの方がなにかと一興でございますし、テトラお嬢様のポリシーにも反することもございません」

「…………ねえ」

 そして、ジトリと目の形を変化させるテトラ。


「あなた、最初からその目的だったでしょ。(友達のいないあたしに距離を縮める)キッカケを作ろうと。あたしから直接問いただされたら、その狙いが叶わないものね」

「まさか。自分の自覚のない弱点を知れる機会があることは、貴重ですから」

「物は言いようよね」

 さすがと言うべきか、取り繕い方に違和感はなにもないが、堂々としすぎているところが怪しいのだ。

 加えて、ここで気づくことがあった。


「(距離を縮める、で)ふと思ったのだけど……あたし、あなたのことをよく知らないわよね。誕生日や、好きな食べ物すら。他には……あなたって普段からもずっとそんな感じなの? 仕事外の時間も隙なくキッチリしているのか」

「誕生日は6月6日、好きな食べ物は甘味の強いフルーツです」

「ふ、ふふっ。あなたが……甘味のフルーツ? ふふふっ、子供舌」

「そのような反応をよくいただきますが……コホン、笑いすぎです」

 言葉の通り、よく笑われるのだ。『容姿とのギャップがある』と。

 そんなレオンは、珍しいテトラの大きな笑顔を長く目に捉えて話題を変えるのだ。


「最後につきましては情けないお話ですが、オフの時間は今の態度とは別物です。申し上げるのならば、今の自分は作った姿でございます」

「じゃあ、素の姿が別にあるってこと?」

「はい」

「……なんか、そう言われたら気になるわね。興味があるわ。あなたのプライベート。案外だらしなかったりするのかしら」

「過去に同じことをお伝えされた記憶がございますね。そして、知られてしまったものもございます」

 顎先に手を当てて想像を膨らませるテトラに対し、正直に答え続ける。


「つまり、全てではないにしろアイラ嬢やフローリア嬢は多少のことは知っているのね」

「テトラお嬢様が驚かれる情報を持っておられるのは確かです」

「そう。じゃあ聞いてみるわ」

 テトラ自身、言葉にはできない心のモヤモヤを回収するためにも。


「よかったわね、あなたの計算通りに進んで」

「とんでもございません」

 そうして、お見通しと言わんばかりに人差し指で突かれながら、首を横に振るレオンなのだった。


 *


「テトラお嬢様、最後にお一つよろしいでしょうか」

「なによ」

 無事に学園にたどり着き、エスコートをして馬車から降りた際のこと。


「誤解なきよう……お嬢様のご命令に対し、自分が嫌だと感じるものはなにもございませんので」

「わかっているわよ。……あ、あなたは大好きだものね、あたしのこと」

「慣れたご様子でしたら、弱っていましたね」

「っ!」

「それではテトラお嬢様、また夕時に」

「ん゛……」

 レオンに簡単に躱され、狙い通りにはいかないテトラだった。

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