第17話 浮いた噂
オルディーデに来てから一ヶ月が経ち、リゲル団長やオルディーデ卿の助力もあって、新しい生活は穏やかに過ぎていった。毎朝新聞をチェックし、世界情勢にも目を光らせるが、防衛呪術を必要とするような由々しき事態は幸い起こっていないようだった。――起こっていないというよりも、起こらないように世界中が神経を尖らせている、そんな雰囲気だった。
自警団への入団申し込みも済ませ、後は審査を待つだけだった。リゲル団長の話だと、移住から三ヶ月を過ぎてから審査が始まり、早ければ一ヶ月ほどで入団許可が下りるという。正式な訓練には参加できないし、見学もリゲル団長に許された時しかできないが、すでに自警団員として活動しているロダが週に一度、体力作りのための早朝ランニングに誘ってくれた。三十分ほど二人で森や湖畔の周りを走り込む。幼い頃から体力を付けてきたハイトにはちょうどいいトレーニングだった。
「さすがだな、ハイト。昔から運動神経も良くて手先も器用だったもんな。ハイトが正式に入団したらみんな喜ぶよ。貴重な戦力になりそうだから」
ランニングの後、小屋の前で水を飲みながらロダは言った。ハイトも水を飲みながら照れ笑いを浮かべた。
「期待に応えられるように頑張るよ」
「でも、ハイトが自警団に入るなんてずいぶん思い切った決断したんだな。あんま表立った活動とか好きじゃないだろ?」
中等学校時代の同級生だけあって、ロダはハイトの性格をよく分かっていた。
「うん。でも、何か出来ることがあるならやってみたいなと思って。リゲル団長もいい人だし」
ロダは笑った。
「確かにリゲル団長はいい人だよ。俺も散々世話になった。実はハイトに嫁さんのことを打ち明けた後、団長にも話したんだ。そうしたら色々と心配してくれてさ。食事を奢ってくれたり家に泊めてくれたり、俺を一人にしないようにしてくれたんだ。正直、ありがたかった。お陰で元気になったし何か吹っ切れたよ。ハイトもあの時はありがとな」
「いいよ。元気になったならよかった」
「ところで、ハイトはどうなんだ? 昔から浮いた噂は聞かなかったけど」
ハイトは首を横に振った。
「僕はそういうのは一切ないよ」
「そっか。……ハイトって結構人に好かれそうなのに、そういう話は本当に一つもなかったよな……」
不思議そうに首を傾げるロダの隣でハイトは苦笑いを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます