第18話 手芸店の店主

 オルディーデに移住する時、ミサンガを編むための刺繍糸は有り余るほど持ってきたが、それでも編んでいけば糸はなくなる。パン屋の看板娘で顔の広いエステルに刺繍糸を売っている店はないかと訊ねると、商店街の中の手芸店を紹介された。

「私、店主さんとも知り合いだから一緒に行きましょうか。今日の放課後でいい?」

 ハイトは承知して、その日の夕方、学校帰りに小屋へ寄ってくれたエステルと一緒に手芸店に向かった。

 所狭しと手芸用品が並ぶ細長い店内の奥で店主の男性が店番をしていた。

「クドラフさん、こんにちは」

 エステルは店に入るなり手を振りながら店主に挨拶をした。歳はハイトと同じくらいか少し歳上に見えた。金色ベリーショートの髪型に綺麗な二重瞼をした切れ長の目が特徴的な人だった。見た目の派手さに反して親しみやすい人柄らしく、エステルは警戒心なく彼に歩み寄っていった。

「エステルちゃん、彼氏でもできたの? 親父さんが怒り狂うぞ」

 エステルは笑った。

「違うわよ。ハイトさんはうちのお客さん。――これ見て、クドラフさん」

 エステルはハイトが編んだミサンガを店主に見せた。

「これ、ハイトさんが編んだのよ。素敵でしょう?」

「へぇ」

 店主は興味深げにミサンガを手に取って眺めた。

「普通の糸じゃないようだな。――いや、素材はそこら辺で売ってる糸と変わりないけれど……」

 店主はミサンガをエステルに返し、ハイトを見た。

「初めまして。僕はこの店の店主のクドラフです。こんななりだけれど手芸用品のことは一応詳しいし、割と何でも相談に乗れるよ」

「ありがとうございます。刺繍糸を見せていただきたいのですが」

 ハイトがそう言うとクドラフは笑った。

「敬語なんてよしてくれよ。友達みたいに気軽に接してくれればいい。――エステルちゃん、そろそろ店番の時間だろ。本当に親父さんに叱られるぞ。このお客さんは僕が引き受けるから、もう行きな」

 明らかに人払いの意図を持った言葉だが、エステルは気分を害したふうでもなく、いつものように明るく笑った。

「じゃあ、お言葉に甘えて。私、もう行くね。ハイトさん、クドラフさん、またね」

 エステルが店を出ると、クドラフは切れ長の目をハイトに向けた。

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