第15話 言い掛けた言葉

 翌日の夕方、エステルと少年は再び連れ立ってハイトの小屋へ来た。少年は編み上がったミサンガを見ると感嘆の声を漏らした。

「わぁ、綺麗だなぁ」

「そうでしょう?」

 と、彼にハイトのミサンガを教えたエステルも得意顔で言った。まじないの掛かったミサンガは少年の手のひらの上で煌めいている。

「ハイトさん、どうもありがとうございました。親友も喜んでくれると思います。――あの、実は……」

 彼は思い詰めたような目でハイトを見ながら何か言い掛けたが、

「――いえ、何でもありません。ごめんなさい」

 と、翳りのある顔をして俯いてしまった。こういう時、ハイトも無闇に人の胸中を探るようなことはしないので、少年が何を言おうとしたのかは分からなかった。

 彼はすぐに明るい顔に戻り、

「四月二十九日が親友の誕生日なんです。早く渡してやりたいな」

 と言った。

「喜んでもらえるといいね」

 ハイトがそう言うと少年は頷いた。

 彼は二本分のミサンガの料金を払ってくれた。ハイトが一本分の料金でいいと申し出たが、

「ハイトさんにもきちんとお礼がしたいので、どうか受け取ってください。失礼なことはしたくないから」

 そう言ってお金をハイトに渡した。ハイトはありがたく料金を受け取った。

 エステルと少年はミサンガを手に帰っていった。

 その後、ハイトの編んだミサンガは四月二十九日に少年の親友の手に渡り、思わぬ誕生日プレゼントに喜ばれたとのことだった。エステルによると少年はその次の日にオルディーデを出立し、遠くの町へ引っ越していった。よほど遠い場所に引っ越したのか、少年は、

「もう一生会えないかもしれないから」

 と親友の前でぽろぽろと涙を零した。親友は「会えなくても手紙を書くから」と言って慰めたが、少年は目蓋が腫れるまで泣き続けたらしかった。

 根の明るい少年が取り乱して泣く姿をエステルも驚いて見守ったという。

 ハイトは少年の言い掛けたあの言葉を思い出した。

「――あの、実は……」

 その後、彼は何を言おうとしていたのだろうか。

 今となっては探る術もなかった。

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