第13話 太陽色
濡れた雨具を脱ぎ、湿った服を着替え、リリーの朝食を用意する。配達の手伝いは一時間に満たなかったが、雨の湿気に体力を奪われて疲れが出た。
ハイトは猫用のご飯を食べるリリーのそばで朝食を取った。エステルと合流し、一旦小屋へ寄った時に置いていってもらったパンと、昨晩のうちに作っておいたスープを啜る。
エステルはこの配達の仕事を大変ではないと言っていたが、高等学校生になりたてでこの仕事をこなすのはやはり大変だろう。毎日穏やかに晴れてくれればいいが、今朝のように荒天に見舞われることもある。こんな仕事の後で学校へも行く。体を壊さないだろうかとふと心配になった。
朝食後、ハイトは二階の自室に戻って壁に掛かった刺繍糸の中からオレンジと黄色と白の糸を選び、ミサンガを編んでいった。
配達の後、パン屋までエステルを送る途中、彼女は黄色やオレンジが好きだと話してくれた。明るい彼女によく似合う色だった。これからも体に気を付けて安全に仕事ができるよう、願いを込めて編んでいく。
エステルはハイトの編んだミサンガに興味は示してくれたが、突然こんなものを渡したら驚かれるかもしれない。そう思いながら、ハイトは手を動かしていった。実際、まじないを必要としない人や呪術に嫌悪感を抱く人もいる。ハイトもシルビアに養育されていなければまじないの概念を知らないまま生きていただろう。不思議な縁だと思った。
土砂降りの雨は昼前には上がり、夕方には綺麗な夕日が出ていた。
編み上がったミサンガを持ってエステルのパン屋へ行くと、彼女は明るい笑顔で出迎えてくれた。
「ハイトさん、今朝は本当にどうもありがとう。一緒に来てくれて心強かったわ」
ハイトは首を横に振った。
「僕の方こそ、いつも配達ありがとう。これ、気に入ってもらえるかどうか分からないけれど、エステルちゃんが毎日元気に配達できるようにまじないを掛けて編んだんだ。よかったら、受け取ってくれないかな」
ミサンガを渡すと、エステルは喜んで受け取った。
「わぁ、綺麗ね。太陽みたい。ハイトさん、ありがとう。私の好きな色で編んでくれたのね」
彼女は手のひらに乗せたミサンガを輝く瞳で見つめた。
「配達の鞄に付けさせてもらうね。これからは一人の配達でもきっと寂しくないわ」
彼女はそう言うと、お礼にマーマレードジャムのパンとラスクをサービスしてくれた。
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