第12話 雨中の配達

「綺麗ね。リリーちゃんによく似合ってるわ。ハイトさん、こんなものを編めるなんてすごいわね」

 エステルは目を輝かせてリリーの首に着けられたミサンガを眺めた。リリーは見せびらかせるように首を伸ばし上げ、エステルの顔を眺めた。

『もっと見て! 褒めてちょうだい!』

 そう言わんばかりのアピールだった。

 残念ながらエステルはまだ配達が残っているので長居できず、「じゃあまたね、リリーちゃん。ハイトさん、明日もまたお伺いします」と挨拶をして次の配達先へ向かった。

 それでもミサンガを褒められて嬉しかったらしく、リリーはこの日一日上機嫌で過ごした。

 次の日の朝、オルディーデの町は大雨に見舞われた。空には分厚い雨雲が湧き、ばだばたと雨音が鳴り、森の道はぬかるんでいた。こんな大雨は引っ越してきて以来初めてだった。ハイトは配達に来るエステルが心配だった。彼女はいつもの時間になってもなかなか来ない。ハイトは雨具を羽織り、ライトを持って外へ出た。

 エステルもまた雨具を羽織り、パンの入った鞄が雨に濡れないように庇いながら森の中を歩いていた。

「エステルちゃん、大丈夫?」

 エステルに駆け寄って声を掛けると彼女は驚いてハイトを見た。

「ハイトさん、遅くなってごめんなさい。雨だとなかなか配達が進まなくて」

「いいよ。僕も一緒に配達に付き合うよ」

 ハイトの申し出に、エステルは笑って首を横に振った。

「ううん、大丈夫よ。お客さんにそんなことさせられないし、こんな雨、慣れっこだもの」

「でも、辺りは暗いし雨脚も強いよ。僕が傘とランプを掲げるから、一緒に行こう」

 エステルは迷いながら頷いた。

「ありがとう、ハイトさん。じゃあ、お言葉に甘えて」

 二人は一旦ハイトの小屋へ寄って濡れた顔や手を拭ってから出発した。

 エステルが濡れないよう、彼女の頭上に傘を掲げ、暗い道をライトで照らす。

 配達先は後五、六軒残っていた。どの家に行っても住民はエステルを労い、「こんな雨の中、ありがとうね」と礼を言った。エステルは笑顔を絶やさず、「いいえ、どういたしまして」と返事をした。

 配達が終わり、エステルをパン屋まで送り届けると、ハイトは小屋へ戻った。

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