第10話 新たなミサンガ
ロダの説明によると、彼は去年十九歳で結婚し、その直後に息子が生まれたという。ロダは結婚前から仕事と自警団の活動に忙しく、結婚後や子供が生まれた後もなかなか家のことに携われなかったらしい。子供が生まれてから、妻は日中、親元で両親の手を借りながら育児をし、夕方にロダの元へ帰るという生活を続けていた。ところが、親元で過ごすうち、妻は異性の幼馴染と再会し、意気投合した挙げ句ただならぬ仲になり、ついにロダに別れを告げた。そういう顛末らしかった。
ハイトはどんな言葉を掛けていいか分からず、しゃくり上げるロダの背中を無言で擦り続けた。酔いが回っていたこともあって、ロダは遠慮なく泣いた。混雑した食堂内で食事も進まなくなった二人は会計を済ませて外へ出た。賑やかだった店内とは打って変わり、外は静かだった。空には星が出ていた。
酩酊し、気持ちが昂ったロダを一人で帰すのは不安だった。
「ロダ、今夜は僕の小屋に泊まりにおいでよ」
「いいよ、悪いから」
「一晩だけおいでよ。あのミサンガも、編み直してあげるから」
ハイトはどうにか説き伏せてロダを小屋へ連れて帰った。ロダはほとんど眠ったようになって、ハイトに担がれていた。ロダをベッドに寝かせると、ポケットから例の古いミサンガが零れ落ちた。
ハイトはそのミサンガの配色を見ながら、作業机の脇の壁に大量に掛けられた刺繍糸の中から似たような色を探し、新しくミサンガを編み始めた。古いミサンガはロダのポケットに返した。
――孤独はつらい。裏切りもつらい。誰かを愛することも時にはつらい。寂しさのあまり自らを粗末にするなんてことしてほしくない。君のことをいつも大切に思っていると伝えたい。
編み上がった新しいミサンガは、艶を放って煌めいていた。
翌朝、ハイトはロダにミサンガを渡した。
「ロダ、僕は君の家族の代わりになれるわけではないけれど、困ったことがあったら、必ず助けに行く。僕という友人がいることを、忘れないでほしい。ずっと、君の味方でいるから」
ロダははにかんでミサンガを受け取った。
「ありがとう、ハイト。――昔とちっとも変わらないな」
ロダの手のひらで、ミサンガは光っていた。
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