第9話 涙の告白
オルディーデの町で一番人気だという大衆食堂は混み合っていた。二人は空いていたカウンター席に座って食事をしながら話をした。
「こんなところでハイトと再会するなんて本当に驚いたよ。中等学校卒業以来だもんな。五年振りってところか。元気そうでよかった。ハイトにも色々と世話になったからな」
ハイトは首を傾げた。同級生として無難に付き合ってはもらったが、学生時代、ロダの世話をした覚えはなかった。
「何だ、覚えてないのか。中等学校の時、お前の編んだミサンガが恋愛成就のお守りとして流行ったことがあっただろ。それで――」
ロダはズボンのポケットから古いミサンガを取り出した。糸は色褪せ、所々ほつれていた。
「俺もこれを編んでもらったんだよ。覚えてないか?」
ハイトは苦笑いをした。
「あの時はたくさん編んだから正直よく覚えてなくて。でも、持っててくれてたんだ」
「捨てるに捨てられなくてさ」
「願いは成就したの?」
ロダは照れくさそうに笑った。
「一応は。まぁ、すぐに別れちゃったんだけどな。あの時はみんながみんなハイトの編んだミサンガを持ってたから、恋愛成就とはいっても叶わない奴もいたんだよな。一人の女子に二人の男子が思いを寄せて、二人共がミサンガを持っていたら、最低でもどちらか一人は失恋するからな」
ハイトは笑った。
「まぁ、そうだよね。必ず願いが叶うってわけじゃない」
「ハイトのミサンガのすごいところは持ち主に寄り添ってくれるところだ。『何があっても絶対にこのミサンガは君の味方であり続ける』って、俺もこれをもらった時にハイトに言ってもらった」
「持ち主に寄り添えるように作ったから、そう感じてもらえたなら嬉しいよ」
「不思議だよな。持ってるだけで本当に心強くなれるんだもんな」
ロダはそう言って酒を呷った。
「ところでロダ、結婚したって言ってたよね。子供も生まれたって」
ロダは酔いの回った目でハイトを見た。
「ああ、そうなんだ。結婚もしたし子供も生まれた。だけどな……」
ロダは酒の入ったグラスをカウンターに置くと、みるみる顔を歪めて嗚咽を漏らし始めた。
「出てったんだ。妻も子供も。もう一週間帰ってこない」
ロダの告白に、ハイトは言葉を失った。
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