第7話 幸せ

 フィッツにミサンガを届け、小屋に帰ったハイトは、二階の自室でベッドに横になった。その腹の上に、白猫リリーが飛び乗る。

『仕事は終わったの?』

 と、リリーは品の良い声で人語を話した。ハイトはリリーの長い体毛に指を埋め、なだらかな背中を撫でた。

「うん、終わった」

 リリーは石のようにどっしりと体重を掛けてハイトの腹に座り込んだ。

『シルビアやローズに会えなくて寂しいわ』

「うん、僕も寂しい」

『あなたは呪術でシルビアと繋がっていて気配くらいは読めるわよね?』

「うん、読めるけど」

『私は気配すら感じられないわ。でも、この町の人達も悪くはなさそうね。団長という人も悪人ではなさそうだもの』

 ハイトは笑った。

「リリーはいつも団長が来るとどこかへ逃げちゃうよね?」

 リリーは人間の男性が苦手でハイト以外の男性が小屋へ来るとすぐに隠れてしまうのだった。

『だって、嫌なものは嫌なんですもの。悪人じゃないことは分かるけれど、乱暴な触り方をする人もいるし』

 つんとしながらリリーは言った。猫に興味のある人なら猫を見掛けたら触ったり撫でたりもしたくなるんだろう。猫も猫で大変なんだなとハイトは思った。もし自分が猫の立場なら、断りもなく勝手に触られるのは嫌なので。

 ハイトは優しくリリーの背中を撫でながら訊ねた。

「ねぇ、リリー。幸せって何だと思う?」

 リリーは丸い目をぱちぱちさせて首を傾げた。

「昔、姉さんが僕の幸せを祈ってミサンガを編んでくれたけど、僕には幸せというものがよく分からないのだと思う。心の底から嬉しいと思えることって何だろう」

 リリーはふさふさした尻尾をゆらりと揺らした。

『難しいこと考えるのね。あたしはあなたのお腹の上で寝転がったり美味しいご飯を食べているだけで幸せよ』

 リリーらしいなと、ハイトは笑った。

 思えば幼い頃の方が幸せはたくさん感じたような気がした。シルビアの用意してくれたケーキで誕生日を祝ってもらったあの日は幸せだった。幼稚舎でいざこざがあった時もシルビアに慰めてもらえればほっとした。

 あの時の気持ちはどこへ落としてきたんだろう。

 リリーを撫でながらハイトはそう思った。

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