第6話 願い

 フィッツとの面会の後、ハイトは防衛呪術用のミサンガを編みながら、彼のブレスレットを思い返した。きっとフィッツは十月生まれなのだろう。十月の誕生石である青いオパールの石が連なったブレスレットだった。

 彼が大事そうにそのブレスレットを腕に付ける姿を見て、ハイトは生まれて初めてシルビアからミサンガをもらった日のことを思い出した。三歳の誕生日、ケーキでお祝いした後、ミサンガを手渡された。

「これはね、ハイトにたくさんの幸せが訪れるように、おまじないを掛けて作ったものだよ」

 シルビアはそう言っていた。

 人間関係の難しさや自身の繊細さに思い悩み、生きることに対して前向きになれないこともあったが、自分の幸せを祈ってくれる人がいるのだと思うと心強かった。

 シルビアの願ったような幸せをハイト自身が感じられたかどうかは微妙だが、シルビアもハイトの繊細さを見抜いて折々言葉を掛けた。

「長い人生、ずっと幸せが続くわけではない。嫌なことや不幸なことはごまんとある。それでも私はお前の幸せを祈る。災禍のない、平和な人生を歩けるように祈る」

 迷いのない眼差しだった。

「お前の感情は濁りがなくて美しい。明るい気持ちも暗い気持ちも否定せず、全部受け止めてあげればいい」

 そう言われたこともあった。

 ハイトもまじない師になり、下手に呪いのような感情を抱くことはできなくなった。人の思念は侮れない。呪おうと思えば本当に呪いを掛けてしまえるのだ。

 オルディーデの町が未来永劫平和であり続け、人々が穏やかに暮らしていけるように、ミサンガに願いを掛けていく。

 静かな夜、白猫リリーの穏やかな寝息を聞きながら、ハイトは防衛呪術用のミサンガを編み上げた。作業机の脇の壁に大量に掛けられた色とりどりの刺繍糸は、卓上ライトの光を浴びて煌めいていた。

 翌日、ハイトは編み上がったミサンガを持って再びフィッツを訪ねた。

「綺麗なミサンガだね。輝いてる」

 フィッツはミサンガを手のひらに乗せてじっと見つめた。彼はシルビアの作ったブレスレットと一緒にハイトの編んだミサンガを腕に付けた。

「ありがとう、ハイト君。すごく心強い。君の祈りの力を感じる」

 フィッツにそう言われ、ハイトは頷いた。

 自らに任された防衛の任務を全うしなければと、ハイトの胸に決意が湧いた。

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