第2話 誕生日
男児の素性は一切不明だった。ただ名前だけは舌足らずながら自ら「ハイト」と名乗った。シルビアの雇った子守は人当たりのよい五十路の女性でローズという人あったが、彼女が白猫に「この子の名前はハイトというの?」と訊ねると、肯定するように目を細めて『にゃあ』と鳴いた。男児は「リリー、リリー」と呼びながら猫を抱きしめた。
「あら、この白猫ちゃんはリリーちゃんというのね」
それ以来、シルビアとローズは男児と白猫を名前で呼び、成長を見守った。
誕生日も分からないしハイトの正確な月齢も分からない。医者に意見を聞くと、恐らく三歳手前くらいだろうとのことだった。誕生日は一月一日ということにシルビアが決めた。
初めてシルビアの元で誕生日を迎えた日、ハイトはシルビアの用意したお祝いのケーキを見て目を輝かせた。
「おいしそうだねぇ、リリー」
隣のリリーにそう言うので、ローズは笑った。
「ハイト坊っちゃん、リリーちゃんは猫ですからケーキは食べられませんよ」
「そうなの?」
「そうですとも」
「ざんねんだねぇ、リリー」
ハイトがそう言うと、リリーは特別残念でもなさそうにテーブルから離れ、暖炉前で椅子に座っているシルビアの膝に乗った。シルビアはリリーを撫でながら笑った。
「君にも特別なごはんをあげるよ、リリー。新しい年が明けためでたい日でもあるからね」
「そうですね。今年もいい一年になるといいですね」
ローズは切り分けたケーキをハイトの前に置いた。ハイトは行儀よく「いただきます」と言ってケーキを食べ始めた。
シルビアは膝で寛ぐリリーに内緒話でもするように小声で言った。
「君の主人はとてもいい子だね。賢くて優しい子だ」
リリーも小声で「なぁご」と鳴いて答えた。
その日の夜、シルビアはハイトに一本のミサンガストラップを託した。
「これはね、ハイトにたくさんの幸せが訪れるように、おまじないを掛けて作ったものだよ」
「おまじない?」
「そう。願いが叶うように、お祈りするんだ」
ハイトは託されたミサンガストラップをじっと見つめた。
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