第3話 旅立ち

 シルビアから贈られたミサンガストラップは折々ハイトの精神を助けてくれた。幼少期の頃の友人との小さなすれ違いの傷心も、思春期の頃の虚無感も、ストラップを持っていれば安心した。

 シルビアはハイトを引き取った直後からまじないの概念を少しずつ教えていった。何も分からない幼い頃は、好きなおもちゃに「大好きだよ」「大事にするからね」と声を掛けることから始めた。

 ハイトの目の前でミサンガストラップを編んでいると、「ねえさん、なにしてるの?」と、幼いハイトはシルビアの膝の上に乗り、刺繍糸が編まれていく様子を興味津々で眺めた。試しに編み方を教えると、覚束ない手付きながら楽しそうに編み、「ねえさん、できたよ!」と、嬉しそうに成果を見せてくれた。

 生活の中で日々まじないに触れるハイトは自然と呪術を受け入れ、才能を開花させていった。

 高等学校に入学する頃には防衛呪術も習得し、シルビアと共にカイングネイトの防衛を担った。平和な町で戦火とは無縁だったが、世界を見渡してみれば不穏な空気はそこかしこに漂い、この国や町もふいに巻き込まれそうな危うさだった。

 そんな中、ハイトは学業を終え、本格的にまじない師としての道を歩き始めた。幼い頃から親しんだミサンガ作りは板に付き、町の人達に配ると喜ばれた。

 そうした実績を積み重ねていくうちに、ハイトはシルビアから防衛呪術の穴となっているオルディーデの町を守るよう、命を受けた。二十歳の時だった。

「私はカイングネイトを守り、お前はオルディーデを守る。波長の合うまじない師同士が離れた場所で防衛呪術を展開すると、その力が増幅されて町を守りやすくなる。お前にしか任せられない仕事だ。よろしく頼む」

 シルビアからそう言われ、ハイトは頷いた。

 七十路になったローズはハイトとの別れを惜しんで涙を零した。

 ハイトは今まで面倒を見てくれたローズにミサンガストラップを編んだ。これからもローズが元気でいてくれるように、離れていても寂しくないように、まじないを掛けた。

 出立の日、ストラップを渡すとローズは感極まって再び涙を零した。

 シルビアとローズに見送られ、ハイトは白猫のリリーと共にカイングネイトを出立し、オルディーデに向かった。

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