まじない師譚

スエテナター

第1章 幼少譚

第1話 みなしご

 晩秋ことであった。カイングネイトの町に住むまじない師のシルビアの前に、一人のみなしごが現れた。

「シルビア様、広場に見慣れない幼児がいます。毛長の白猫を抱いている子なんですが、どこの子なのか誰も知らなくて」

 町民からそんな報告を受けたシルビアは黒いロングワンピースの裾を翻して広場に出向いた。

 白猫を抱いたみなしごは広場脇の駐在所に保護され、椅子に座っていた。歳は二、三歳に見えた。シルビアは一目見た瞬間、この幼児が只者でないことを見抜いた。普通の人間ではないし、呪術の素質もある。

 白猫は男児を守るように彼の膝の上で周囲を警戒していた。

「この子の家族は?」

 シルビアが訊ねると、年老いた駐在は首を左右に振った。

「探しておるんですが、見つかりません。町民もみんなこの子を知らないと言います。私もこんな子は見たことがない。町外の子かもしれません」

 シルビアは男児を見つめた。特別な気配を感じる。

 男児も大きな目でシルビアを見た。運命も境遇もまだ知らない無邪気な瞳だった。

「家族が見付からなければ保護施設に預けるしかありませんな」

「いいや」

 と、シルビアは駐在の提案に異を唱えた。

「この子は私が引き取る。ただの子供ではないようだ」

「……シルビア様にお任せすれば大丈夫なのでしょうが……家族が現れるかもしれませんぞ」

 シルビアは笑った。

「その時には素直に返すさ」

 ――だが、誰も現れることはないだろう。

 シルビアの見立て通り、男児の家族は現れなかった。

 一旦保護施設に預けられた男児は種種の手続きを経てシルビアの元へやってきた。男児が来る間に子守も手配した。保護施設に猫は預けられないので白猫は一足先に引き取ったが、男児と引き離されて落ち着かない様子を見せていた。

「君からあの子を取り上げてしまってすまないな。あの子も直にここへ来るからもう少し待っててくれ」

 シルビアが何度かそう言い聞かせると、納得したのか、安らぐ姿を見せるようになった。

 そうしてシルビアは男児と白猫と子守、三人と一匹で暮らすことになった。

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