番外編というか後日譚「推しと図書館デート」
グレインが現実世界の私の生活の中に入って来た。
いや、ゲームのキャラクターとしてのグレインはずっと私の生活の中心だった。私の『推し』である。
グレインのグッズが一つでも混ざっていれば『マジ・マリ』の一番くじを買いにコンビニに走ったし(たいがいF賞、下手をすればG賞辺りなので逆に手に入れやすかった)、スピンオフの小説が出ると聞けばカレンダーに
いや、以前の生活を語っても仕方ない。
問題は今である。グレインが現実世界にやって来てからまだ一週間もたっていないのだが……
「美弥呼、このテレビという装置の使い方を教えてくれないか?」
「美弥呼、スマホというのを契約できないだろうか?」
「美弥呼、今日は一緒に風呂に入ろう」(猫)
「美弥呼、一緒に寝よう」
「美弥呼、いいか?」(意味深)
「美弥呼……美弥呼……」
毎日毎日、私の生活はグレインに埋めつくされている。何がマズいって
なにが困るってまず服がない……初日こっそりお父さんの服を着せようと思ったけど170㎝のお父さんの服じゃ190㎝オーバーのグレインと全くサイズが合わなかった。
仕方ないのでGUに買いに行って適当に見繕って帰ってきたが、サイズが大きすぎたためセール品になっていたカットソーとスリムジーンズでめちゃくちゃカッコ良すぎて、着せ替え人形にしたくなってしまった。
ざ、財力が……私に財力があればコスプレさせたり、いっそダークスーツを着せたり、いや、ラフな格好で街歩きデートも……と妄想が広がりまくりである。
「元の世界のローブもいいが、こっちの世界の服は本当によくできているな。縫製の仕方が面白い。これが大量生産品というのが信じられないくらいだ」
グレインの『なぜなぜなぁに』に答えるのにスマホを見ながら答えていたら、スマホの使い方を知りたいというので教えてあげるとあっという間に使いこなすようになった。
あと、一番ヤバかったのは私が部屋に貼っていた『マジ・マリ』スピンオフ小説のカバーイラストから拡大コピーして作ったグレインのポスターを見られたことだった。
(残念ながら公式のものは存在しない)
見た瞬間グレインの頭に『?』が四つくらい浮かんでいるのが分かったので体で覆って隠した。隠れないけど。
「美弥呼……その絵姿は……」
「違うの! その、これはグレインじゃなくて……いや、グレインなんだけど……あっ、あとで説明するから見なかったことにして!」
半ば逆切れするようにして一旦隠した。
一度だけ血迷いそうになったコミケで売られていたグレイン抱き枕を買ってなくて良かったと死ぬほど安堵した瞬間でもあった。
(半裸のちょっとエッチなやつ。
「そうか……美弥呼がそういうなら見なかったことにするのはいいんだが。これが美弥呼の言っていた『推し活』というものなのか」
ああ、元の世界の話をして欲しいって言われて『推し活』なんて言葉を教えたあの頃の自分をグーで思いっきり殴りたい。
大体190㎝を越えてるグレインは私のベッドに横になると足がつっかえそうだし横にも縦にもサイズが合わない。
今は変身魔法でみゃーこの体がグレインになってるけど、いずれ生体ボディを作って精神を移動するらしい。いや、宮廷魔術師だったグレインが何しようがもう驚かないけどね。
すっごい余談で読者のみんなもどうでもいいと思うけど、みゃーこは名前に反してオスでした。
いや、おばあちゃんの作った探し猫のビラにもよく見ると「オス・黒猫・1歳」って書いてあった。
名前でメスだと思い込んでたし。
「この身体のみゃーこはオスだが、俺の世界にいたミャーコはメスだぞ」
いや、自分の体だったから知ってるけど……黒猫同士だから同一
グレインはこの世界でこの後の人生を過ごす気満々なので、ビザやら住む場所やら仕事みたいなことをちゃんと考えないと、オバケのQ太郎みたいに居候でゆるく
え!? 私が就職して養う? グレインがヒモ? 解釈違いだ!! いや、なんか専業主夫は似合うと思うけど家事を任せたら家事専用オートマターとか作っちゃう人だから。
「マリアがいないと不便だな」とか言いだしちゃうから。これ以上、戸籍不明者を増やさないで。
この世界の戻ってきた次の日、学校で
学校で聞いて回ったけど今の時点では事故はおこってないみたいでやっぱり
いや、五十
私がここで五十鈴に忠告するのは歴史の修正力みたいなものだから。
告白してフラれたばかりの私から心配するような言葉をかけられた五十鈴が舞い上がって再告白してくるのはまた別の話。
「図書館の中では絶対おとなしくしてね。あと、グレイン自身にはまだ何の身分証明もないんだからあんまり目立たないでね」
「分かってるよ。まだ猫だし。俺は猫、俺は猫って言い聞かせて気を付ける。ところで図書館では本が借りられるとタブレットで読んだのだが本当か?」
「うん、まあ市立図書館だから私のカードで8冊まで2週間ね。いつかグレインの戸籍が出来たら図書館のカードも登録しようね」
ネットでも調べてみてるけど、図書館で外国人の登録方法の本でも見つけられた良いな。不法滞在で強制送還しようにも送還先はこの世界じゃないんだもんね。
「それじゃあ、先に降りて
そういうと私の部屋で猫から変身したグレインがパーカーにジーンズっていうちょっぴりラフなスタイルで2階の窓から飛び降りる。
これも何とかしないとだけど……家族になんて紹介しよう?
お母さんはともかく20歳年上の外国人と交際するとか言ったらお父さんは気絶しそう。
弟はぜったいグレイン(イケオジ・現実)とグレイン(イケメン・ゲーム)との関連を疑いそうだし。そんなことを考えながら玄関を出る。
「それじゃあ、行こうか! しゅっぱ~つ!」
悩ましいことも多いけど隣を歩いているグレインを見上げると全部が吹っ飛んでしまう。
推しと図書館デートできる乙女はいつまでも悩んでなんかいられないくらい幸せなのだ。
ぎゅぅと腕を組んで明るい日差しの中を図書館に向かって二人で歩いていく。
今日の私も幸せだった。
-----------------------------------
ということでグレインが現実世界にやってきた後の番外編というか後日譚でした。
リクエストも何もなかったけど気付いたら書いていたので公開します。
面白かったら評価貰えると嬉しいです。
宮廷魔術師の黒猫~転生したら推しのイケオジの使い魔でした。猫かわいがりで溺愛されてます~ みどりの @badtasetedog
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます