最終話 別れと新しい日々

 事件が解決して私は無事にグレインの元の戻ってこれた。


 自分の気持ちの通り本当にずっとグレインを愛していたしグレインも受け入れてくれて体を重ねることも出来た。


 だけど私は学園に復帰することはできなかった。もうすぐみんなは卒業するけど私は学校を辞めてしまった。


 魂が混ざり合って徐々にミャーコの魂に同化し始めたのだ。


 頭痛が治まるに従い私の、美弥呼人間としての意識が薄れることが増えてミャーコとして過ごすことが多くなった。


「どうすれば美弥呼の魂を定着することができるんだ!?」


 グレインが一生懸命研究してくれて、ダンジョン・コアを使った魂の分離実験までチャレンジしたり他の魔術師に使い魔を持ってもらって異世界の魂を引き寄せることができるのか実験が行われたりしたけど思うように結果は出なかった。


「いいよ、グレイン。無理しないで。最近は寝てないでしょ?」


 私が私でいられる時間はだんだん短くなっている。そんな時は人間の姿を保っていられなくて猫に戻ってしまうようだ。


 私は満足してるんだよ。だってもいい方に変わって、この世界の真のトラブルの原因だった転生者も取り除けた。


 第三王子のシルヴァとベアトリーチェの婚約は継続したし、アルフレッドは騎士に、メルヴィンは魔導士の道を歩んで魔塔への就職が決まった。


 自分の身体が不安定な状態だからグレインの子供を作ってあげられなかったのは残念だけど……推しと自分の子供とか夢小説じゃないんだから欲張り過ぎだよね。




「グレイン……体に気を付けてね。多分これでお別れだけど……ミャーコを可愛がってあげてね」


「美弥呼……頼む。ずっとそばにいてくれ」


「もう、わがまま言わないの。こういう運命だったんだよ。私全然後悔してないよ。むしろ幸せだったから。使い魔にしてくれて……奥さんにしてくれてありがとう」


 わたしの左手薬指には金の結婚指輪がはまっている。グレインの指にもお揃いのリング。

 この世界の結婚指輪に関する風習はゲームだから現実世界と同じなんだね。


 グレインが私の手を握ってくれる。


「逆にわがまま言っていいかな? 最後の瞬間ずっとキスしてて欲しい。猫に戻っちゃうからミャーコとキスすることになっちゃうかもしれないけど……最後のお願い」


「愛してるよ美弥呼……」


 グレインがキスしてくれる……彼の唇の感触を味わいながら私の意識は暗転した。


 …

 ……

 ………


 パッパッパァァーーーーッ! キィィィィィィッ!


 意識を取り戻した私の目の前に赤い乗用車が迫る!


 はぁっ!? なにこれ? あの事故の瞬間!?


 腕の中を見る。抱きしめていたみゃーこと目が合う。


『間に合った』


 は!? なに今の? 念話?


 車がぶつかると思った瞬間、周りの景色にノイズが走ったかと思うと私の体は数メートル前方に移動して車をすり抜けていた。


 バタンッ


 車から運転手が飛び出してくる。


「怪我は!? きみ怪我はしていない?」


 慌てた様子の中年男性。それはそうだろうね……絶対事故ったと思ったもん。


「だ、大丈夫です。すみませんでした!」


 謝るとみゃーこを抱えたまま走り去る。自分の家まで帰り着いて自分の部屋の中で一息つく。


 ていうかさっきのって瞬間移動の魔法だよね?


「みゃーこ? みゃーこがやったんだよね? って言うかグレイン? グレインなんでしょ!?」


 みゃーこの目を見て語り掛ける。


『相変わらず美弥呼は理解が早いな。なんていえばいいんだろう? また会えたな、美弥呼』


「ちょっと待って? 本当にどうなってるの? さっき別れたばっかりだよ?」


『疑問ばっかりだな。もうちょっと喜んでくれてもいいんじゃないか? メタモルフォーゼ!』


 目の前に十歳くらい歳を取ったグレインが立っている。全裸で!!


 私の推しのイケメンがイケオジになって全裸!!

 相変わらず鍛えられた筋肉を前にちょっと言語中枢がバグりそう。


「ちょっとグレイン、とにかくこれでも巻いて! なんでみゃーこが? そもそもどうやってこの世界に来たの!?」


 自分の部屋のタオルケットをグレインに渡して体に巻きつける。

 ダメだ! 巻きつけてもギリシャの彫像みたいで魅力が全く減らない。


「美弥呼の魂と俺の魂はリンクされているからな。使い魔だったんだから当然だろ。もっともを確立するまでに十年もかかってしまったが」


 ついでにミャーコをあっちの世界で看取ってきたらしい。


「た、魂の定着方法って?」


「ああ、マリアに使っていたオートマター方式とあの後完成させたホムンクルス方式があるがどっちがいい?」


「どっちがいいって? つまり今の使い魔状態のみゃーこ+グレイン状態から、みゃーこと切り離して別の体にグレインが入るってこと?」


「そうだ、俺としては美弥呼と歳を重ねていきたいから人体を模してつくるホムンクルスが望ましいが」


 頭がパンクしそうなんだけど!?


「っていうか、今私たちって日本語で話してるよね? どうやって日本語を覚えたの?」


「ああ、あの残された転生者のダンジョン・コアを解析して……」


「うわぁ……変な18禁の知識は入れてないでしょうね?」


「ごく一般的な日本語を覚えたつもりだ。まあそれはこれからも勉強していくとして……美弥呼」


 グレインに抱きしめられる。私はもう真っ赤だよ。


「美弥呼、もう二度と離さない」


「……うん。えっと……さっきキスして別れたばっかりだから戸惑いしかないけど……ありがとうグレイン」


 二人の唇が重なる。グレインの手が腰に回って……えっと、これって私求められちゃってる?


 確かに向こうで何回もエッチしてるんだけど……こっちの世界の私にとっては初めてなわけで……私のいつも寝ている(って言っても気分的には久しぶりだけど)ベッドに押し倒される。


 グレインのベッド向こうの世界でしたことを思い出して体が熱くなる。


「ああ……グレイン」


 覚悟を決めて……


「美弥呼~? 帰ってるの? おばあちゃんの猫は見つかった~?」


 間延びしたお母さんの声。もう会えないと思っていたお母さんの声は嬉しいけどこのタイミングで呼びかけられるとは……


「み、見つかったよ~連れて帰ってきた~」


 声が裏返ってしまう。グレインと目を見合わせて吹き出す。


「グレイン。みゃーこをおばあちゃんのところに連れて行くから猫に戻ってくれる」


「ああ、時間はたっぷりあるから……これからもよろしくな、美弥呼」


 二人の時間はこれからいくらでもある。

 きっとドタバタで楽しい日々が続いていく。そんな予感に胸が弾んだ。


「よろしくね、私のグレイン」


(完)


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ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

美弥子とミャーコとみゃーことグレインの物語はこれで終わりです。

本当ならもうちょっと書いてみたいお話がいろいろありましたが、書きたいくらいで終了するのがイイかなって思います。

現実世界に戻ってからのこぼれ話はいくらでも書けそうですけど、読みたいという奇特な方がおられましたらコメント欄にご希望をお書きください。


そうでなくてもコメントは非常に嬉しいです。

それではここまでお付き合いくださりありがとうございました。


次回作も準備中ですのでよろしければこれからもみどりの作品にお付き合いください。

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