第27話 決戦! ストーンゴーレム

「その声……聞いたことがある。元の世界にいたクラスメイトの……」


『そうだ! お前にフラれた五十鈴いすずふとしだ! 俺が死んだのにお前は何も思わなかったのか?』


「ちょっと待って? 私が死んだ時点で五十鈴は生きていたでしょ!?」


『はぁ? なにを言っている! お前は生きていただろうが。俺が死んだのは12月のトラック事故だ』


 おかしい。告白されてフッたのは事実だけど私が事故にあった4月の時点では時点で彼は生きていたはずだし……ッ! 頭が痛くて考えがまとまらない。


 ブンッ


 ゴーレムの腕が振るわれて私が立っていた場所を薙ぎ払う。


 私はジャンプして間一髪で攻撃を避けるとそのまま隣の建物のの屋上まで飛んでそこからゴーレムに飛び掛かる。


「ミャーコ! 力を貸して」


 私は自分自身に呼びかける。ミャーコの猫としての力を引き出すしかない。


「はああ!」


 爪をゴーレムに突き立てるがゴーレムはビクともしなかった。


「くっ」


『無駄だ! その程度の力ではゴーレムには傷一つ付かん』


「だったら……『ファイアーボール!』」


 メルヴィンとの試合で使ってグレインに消された特大ファイアーボールを上空に作り叩き落す!


 ドガアアアアアアン!!


 火球がゴーレムが包み込む。


「バカ! 周りの被害を考えろ!」


 メルヴィンが自分とリリィの周りに土と風と水の三重結界を張って身を守っている。


「やった!?」


 炎の渦が収まるとそこには表面が煤けただけで無傷のゴーレムが立っていた。


『無駄だ。その程度の魔法では傷一つつかんと言っただろう』


「だったら……『アイス・ストーム!』」


 氷雪の嵐がゴーレムを包み込む。温度差ならどうだ! 灼熱から極寒!


「そんな……」


 無傷のゴーレムが氷嵐をもろともせず近づいてくる。


『石だから温度差でどうにかなると思ったのか? これは一つのダンジョンだ。世界で一番小さなダンジョンだよ』


 勝ち誇った笑い声が響く。


 頭痛に響く笑い声ね。そう思った瞬間油断していたのか薙ぎ払うようなゴーレム腕の一振りをかわし損ねる。


「ミーヤ!!」


 メルヴィンの悲痛な叫び声。


 バキッ! バコォッ! ズゥゥン!


 吹っ飛ばされた私の体が建物の外壁をぶち抜き家の中の壁にぶち当たって止まる。


「カハッ!」


 口から血を吐く。吹っ飛ばされた勢いのせいでミャーコでさえも受け身を取ることができなかった……


 ズシン……ズシン……


 一歩一歩ゴーレムが私がうずくまっている建物に迫る。獣人の体が開けた壁の穴からゴーレムの姿が見える。


 メルヴィンが足止めしようと石の壁を足元に作ったり妨害しようとしている全てを蹴散らしてゴーレムは近づいてくる。


『これで終わりだ。お前のせいで計画が狂ったがこの世界は俺のものだ! お前のこともダンジョンに取り込んだ後でたっぷり遊んでやるよ』


 そう言うとゴーレムの手のひらが建物の中に入り込んできて私の体を……


 チュィィィィィィィィン


 その瞬間、甲高い音がしたかと思うと光の帯が一閃した。


 ゴンッと音がして私の目の前まで伸ばされていたゴーレムの腕が落ちる。


「遅くなった。すまない美弥呼」


 私の目の間に……世界で一番頼りになる背中が……グレインの背中が見えた。


「グレイン……ベルタが……ダンジョン・コアを使ったの……ベルタは私と同じ世界の人間だった……ゴフッ」


 口から血が噴き出したのは肋骨が肺に突き刺さっているんだろうか……頭も割れるように痛い。だけど……グレインが来てくれた。


「大丈夫だ。美弥呼、よくがんばったな」


 そう言うとグレインが私を抱きあげる。次の瞬間、周りの景色にノイズが走ったかと思うと私は離れた広場に横たえられていた。


「ミーヤ! すぐに治療するからね」


 目の前にアリスティアがいて私が手をかざしてくれる。治療魔法の優しい光を見ながら私は意識が遠のくのを感じた。


 …

 ……

 ………


 目が覚めると見慣れた天井だった。有名なセリフ「知らない天井だ」は言わせて貰えないみたい。


「ここは……?」


 グレインのベッド? 私は……


「あ、気が付いた?」


 アリスティア? アリスティアがグレインの部屋で私を看病してくれている?


「グレイン理事長! 美弥呼が目を覚ましました!」


 アリスティアがグレインを呼んでいる。どうやらアリスティアには私の事情が伝わっているらしい。


「美弥呼、体は大丈夫か?」


「うん……大丈夫。なんとなく違和感がある気がするけど手もちゃんと人間の手に戻ってるし」


 グーパーすると普通に肉球と爪じゃなくて自分の五本の指が動く。グレインが変身魔法で美弥呼の姿にしてくれたらしい。


 起き上がろうとしたところをグレインが支えてくれる。まだ頭がズキズキするけど肋骨や胸の痛みは治まっている。


「ベルタはどうなったの?」


「美弥呼が気を失った後、魔法でゴーレムの手足を全て落して動きを止めた。ゴーレムの胴体を半分に割ったら中からベルタ・ノルン子爵令嬢とダンジョン・コアが発見された。ベルタ嬢の方は記憶を失っていて幼い頃に自分が乗っ取られたことを薄っすらとしか思い出せないらしい。に関してはダンジョン・コアと一体化してベルタ嬢から分離されたようだがコアとコミュニケーションを取る方法が存在しないため、未来永劫……魔塔で封印されることになった」


 グレインが教えてくれる。


「そっか、ベルタも助かったんだ。良かった……」


 転生者と呼ばれているのが自分の元クラスメイトだというのは何とも言えないけど……それに関しては時系列とか分からないこともあるけど……


 ッ……頭痛だけはどうにかならないのかな。


「美弥呼、とにかく間に合ってよかった。遅くなってすまない」


 グレインが私の体を優しく抱きしめる。


「大丈夫。ちょっと頭が痛いだけ」


 本当はすごく痛いけど……


「そうか……魔塔の医療班から報告があった。美弥呼の魂は別の世界の人間のものであると。だがこの世界の猫であるミャーコの魂も混ざってしまったことで魂のバランスが崩れているらしい。変身魔法で獣人化しただろう? それが引き金になってしまったようだ」


「そっか……ミャーコのおかげで生きてるんだもんね。贅沢は言えないよ」


「俺がダンジョン・コアの存在やドラゴンの牙の違法売買から先回りできていれば美弥呼にあんな無茶させずに済んだのに……調査の過程で後手に回った。本当にすまない」


 はぁ。ため息が出る。


 と思っているのか。優しく抱きしめられたままグレインの大きな体に腕を回す。グレインの首にしがみつくようにして抱きよせる。


 ちゅっ


 グレインの唇に自分の唇を軽く押し当てる。


 看病のために横についていたアリスティアが目を白黒させて、グレインは真っ赤になっている。


「それ以上謝ったら私の唇でグレインの唇を塞いじゃうから……ありがとうグレイン、愛してるよ」


「美弥呼……ああ、俺もお前を愛している」


 今度はグレインの方からキスをしてくれた。


 私はグレインの体をぎゅっと強く抱きしめる。大好きでずっと応援していた推し。


 この幸せをくれたグレインに私は生涯きっと恋し続けていくんだろうと心の中で確信していた。

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