はじめに断っておくが、当レビュー筆者は競馬にはまったくの無知である。公営ギャンブル、程度のことしか知らなかった。しかし、馬の持ち主、育成者、普段の世話をする人、レースの騎手など、ギャンブルと関係なくその世界に生きている人がいるわけで、もちろんここにも人間ドラマは存在する。レースを介したドラマが。
主人公は、騎手として8年目。若手とはいえず、勝ち星も少なく、ある理由によっていささか隅に押しやられた存在。だが、騎手人生はまだ終わっちゃいないんだ――! 騎手仲間(ライバル)、調教師や厩務員、馬主、マスコミといった人々と繰り広げられる、生々しい人間ドラマ。言葉こそ交わせないけれど、馬との信頼と絆。レースをめぐる、金ではなく意地とプライドのぶつかり合い。そして、揺れる芝のにおいと、降り注ぐ太陽の光。その先で主人公・加賀は栄光をつかみ取ることができるのか。
息もつかせぬレースの場面は、戦況の説明にレース実況が巧みに織り込まれ、くどくなくスピーディで、引き込まれる魅力。競馬を知らなくても、そのスピードに乗ってレースを楽しめます。そしてレースに関わる人間ドラマが好きな人にもおすすめ。少し競馬が楽しめるようになるかもしれません。ただし馬券は自己責任で。