【3】「見慣れた知らない景色」


 エピソードタイトルがBUMP OF CHICKENの『Hello,world!』の歌詞みたいですが、まあ正直言えばそこから取りました。

 これはバンプの楽曲の中でも3本の指に入るくらい好きな曲ですが(あとの2本は『ハンマーソングと痛みの塔』『カルマ』)、割と序盤で出てくるこの矛盾した歌詞は、初めて耳にしたとき、まっすぐに刺さってきた記憶があります。


「見慣れた知らない景色」


 私はこれをしばしば夢で見ます。というか、皆さんも割とありませんか?


▽▽


 個人の経験による感覚ですが、「見慣れた知らない景色」には、ざっくり2種類あります。


【その1】日本のどこかにありそうな街並み、風景


 以前ツイッターで、夢を「文字の情報として見る人」と「ただひたすら映像で見る人」みたいなつぶやきをしている人がいました(こんなニュアンスかな?という程度のざっくり表現ですが)。

 もちろん映像は映像としてあるわけですが、そこで繰り広げられるストーリーや人間関係をやたら具体的に言語化できる人というのは、結局「文字情報」としての夢を見ているのではないか、と。

 要するに、映画を見ているか、小説を読んでいるかの違いとでもいいましょうか。


 「新宿のどこかの地下鉄駅から地上に駆け上がったところに海があった」という、なかなかドラマチックな夢を見たことがありました。

 「東海地方某都市の市街地を走る路線バスに乗り込んで、降りるバス停を寝過ごしたと思ったら、東京・城南地区の超高級住宅地の中を走っていた」とかね。


 どうしても生活体験が乏しいので、「見慣れた」の素材は少ないのですが。

(超高級住宅地というのは、「田園調布」と「成城学園」を結ぶバスの途中停留所が学寮の最寄りバス停だったので「バスの車内から見えていた」だけですが)


 余談ですが、まだ小学校に入るか入らないかの頃、オーストラリアに行った夢を見たことがあるのですが、朝起きてから兄に「わたし、おーすとらりあにいったことがある?」と聞いて、「あるわけねえだろねぼけてんなバーカ」と返されました。

 多分あれは、テレビの『ミユキ野球教室』(1957~90)のオープニングを見過ぎたため、その記憶経験が夢に干渉してしまった例だったのではないかと思います。

 ピンと来ない若い方は、You Tubeで「ミユキ野球教室」で検索すると、いいものが見られるのでお勧めです。


▽▽


【その2】自分の夢限定で頻出する風景


 特に椅子に腰かけたまま居眠りすると、どういうわけか「マンモス学校」もしくは「巨大病院」の構内で迷子になるという夢を見ます。

 学校というのは、少なくとも小学校ではなさそうという程度のことしか分かりません。大学だと、規模が大きいと学部ごとにキャンパスが違うということはよくあるので、むしろ違うかも。


 病院の方は、別バージョンとして「巨大デパートorショッピングモール」「ホテル」のパターンもあり、どちらにしても、変な慣れ方をしてしまっているせいか、「あー、これ同じところを何回も行ったりきたりするパターンだ…」という、やや諦めに似た感情が湧くのですが、とりあえずそこから抜け出そうと試みます。で、「目覚め=脱出成功」となります。


▽▽


 そしてそして、その「見慣れた知らない景色」の中で、それなりに小事件や印象に残る出来事もあります。

 中には「お、これは小説のネタになる!傑作いただき!」とで思うのですが――起きたときにはすっかり忘れているか、何とか思い出して書き出しても、「何でこれがイケると思ったんだろう…」という切ない気持ちになるかです。


 事の真偽は分かりませんが、映画『フィフス・エレメント』は、リュック・ベッソン監督が見た夢がベースになっているという話を聞いたことがあります。

 監督が映像派か文字派かまでは分かりませんが(前者かなあ…後者だったらむしろ興味深い)、よくよく考えると、夢自体にストーリーがあるのは、単にイマジネーションの妨げになるだけなのかなと思えてきました。


 お粗末さまでした。


【『コーヒーナップの幻』 了】

※次ページにおまけがあります。もうしばしお付き合いを。

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コーヒーナップの幻 須恵村 @yurinoki2024

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