東大生の質は落ちたのか?それとも進路が変わってきたのか?

@bingoyotaro

第1話

私は早稲田大学の学生だったが、東大生の友人がいたので駒場や本郷の東大のキャンパスに頻繁に出入りしていた。ある日東大の理Ⅰの人と出会った。その人は佐藤(仮名)といい、私の中学校の1年先輩で、非常に優秀な人だった。灘校の受験で5科目すべて満点で、社会だけ98点だったという噂だった。当然灘校にはトップで合格し、入学式の時は新入生を代表して挨拶をしたぐらいだった。私は名前だけ知って顔を知らなかったのだが、友人からそのことを教えられた。

その後東大へも現役で合格しバリバリの俊英のはずだった...。


しかし、ある日、佐藤さんの先輩で東大医学部の人が出てきて、2人が話をしているのを見たとき、その医学部の人が佐藤さんに向かって「おまえは馬鹿か?」と怒鳴ったのである。それも冗談ではなく本気であった。佐藤さんは反論するでもなく、ただ下をうつむいていたのが印象的だった。私はその時東大には底知れないほどの秀才が集まって来ているのだなと実感した。言うまでもないことかも知れないが、早稲田の学生とは比べものにならないくらいだった。


今から50年くらい前のこの時代、東大を出たら霞が関の官僚になるのが一番の人気コースであった。官僚について問題点が指摘されることも多いが、私自身がこういう現場を目撃して「それも無理はないな」と思う。何しろ、頭のできが普通の人とはまったく違う。難しそうな本でも何でも1回読んだだけで忘れないというのだから恐れ入る。


しかし、東大出身の元官僚が政治家になっているケースで、どうも質が落ちている気がする。エッフェル塔の前でふざけたポーズで写真を撮り、それを平然と公開する女性議員や、「このハゲ~」と怒鳴り声を上げてボイスレコーダーに録音されたりしたドジな女性議員、そして極めつけは女狂いの果てに法律の公正な適用までも歪めてしまった国会議員...。


私は世界の中で日本人は体格的に劣っていると思う。そうした民族が体力で欧米人に立ち向かおうとしても叶わない。そこで、民族が生き残りを賭けて自分達の中から知力に優れたものを選び出し、その人達に国の舵取りを任せようとしている。それは一種の生き残るための知恵であろう。官僚になるには、試験に合格しなければならず、これはコネではどうにもならない。そういう意味では日本におけるエリートの選抜制度は間違ってはいない。


日本が太平洋戦争に負けた時、米国の調査団が日本に来て政府の関係者達を調べた時、ある関係者が「日本は意外に早く復興するのではないか」と語った。その理由について彼は「日本の役人が非常に優秀で賄賂を取らないからだ」と述べた。確かにかつての日本の官僚は優秀で最近見かけるような不細工なエリートはいなかった。誰もが自分が日本を支えるのだという自負心のようなものを持っていた。


しかし、どうもその傾向が最近変わってきたような気がする。今では優秀な東大生は外資系に流れると言う。かつては、東大法学部首席はそのまま助手になった。その次が大蔵省、そして自治省、外務省、通産省という国家公務員上級職に就き、3番手が弁護士などになり、そして4番手くらいが民間企業に進んだ。


だが、この頃はこれがどうも違うらしい。一番優秀なのが外資系の民間企業に行き、次が弁護士などの自営業を目指し、そしてその次くらいが役人を目指すというのだ。これでは官僚の質が落ちるのも当然であろう。


つい先日も私は腰を抜かさんばかりに仰天したニュースに出くわした。それは、

「衆院島根1区補選 錦織功政氏、敗れる」というものだ。私は財務官僚出身という錦織功政氏の経歴を何気なく見た。


インターネットの自己紹介にはこうある。


地域とともに誇れるふるさと島根を!松江市雑賀町で酒屋の次男坊として生まれる。雑賀小学校、島根大学教育学部附属中学校、松江北高校、早稲田大政治経済学部卒。大蔵省(現・財務省)入省後、金融庁証券取引等監視委員会事務局特別調査課長や復興庁統括官付参事官などを歴任。


私はこの人が早稲田大学の卒業生ということに驚いたのだ。これは私が早稲田大学の学生であった50年前には考えられなかった話だ。私の時代には早稲田大学の卒業生で三菱銀行とか住友銀行などに入行できるのは成績が全優くらいの本当にトップのトップであり、ましてそうした銀行を束ねる組織である大蔵省(現・財務省)に入庁できるはずもなかった。


実際、大蔵省(現・財務省)というのは官庁のトップに立つ官庁で「省の中の省」と言われるぐらい難関の官庁であった(今もそうであろう)。今から30年ほど前には(錦織氏は現在55歳なので、彼が入庁したのは約30年前ということになる)、東大法学部のトップの秀才でさえ入省するのが難しいと言われていた大蔵省に早稲田大学から入省するようになっていたのか?


そこまで大蔵省(財務省)が軽い存在になっていたとは今のいままで知らなかった。







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