第24話 一瞬の決闘

闘技場に着くや否や、木刀を渡された。作られたばかりの新品の木刀。


「聖女のところに行くからには、まず既存の騎士にかすり傷でも付けてみろ。ほら、ほら。」


ニヤニヤしながら指を上げ下げし、あからさまにラリーを挑発する。


いつの間にか審判らしき人が立っている。銀色の笛をピィィッと鳴らす。


「では、初め!」


もう一度笛をピィィッと鳴らした。途端にケコーが襲いかかってくる。


不思議と、スローモーションのように見える。相手の動きがナマケモノのように遅い。


ニヤニヤ笑っているけれど、隙だらけ。脇も、脚も、顔面でさえ狙えてしまいそうだった。


観客席に立っている騎士たちの会話が次々に空気から耳に、耳から脳に伝わる。


「ウチのケコーさんは強いんだぞ。なにせ皇室の副団長に勝ったんだからな。」


「皇室の騎士団は精鋭揃いって聞いたぞ。ケコーさんが相当な人だってことだよな。」


残念ながら、その相当なケコーさんよりも僕の方が強い。


ピリッ!!


ケコーがラリーに攻撃を食らわせる前に、ラリーがケコーの脇腹に木刀を当てた。


周りはしん……っと静まり返った。話す人なんて誰一人いない。安息の沈黙。


洋服が破けるような、思い切り皮が剥けるような音が鳴り響いた。辺りは静かで風も吹いていなかったから、葉と葉がぶつかる音も、ピューピュー吹く風の音も聞こえず、よく聞こえる。


ケコーは白と青っぽい顔をしながら固まっている。強く切りつけすぎたのか、血が溢れ出ている。けれど、まるで気にしていないようだった。


決闘は思いの外一瞬で終わってしまった。


ラリーが事態の収拾に悩んでいると、後ろからパチパチパチと最低でも3人はいる拍手の音が聞こえた。


「すっご〜い!たった2年でこの実力!?さすが後に聖女さまの護衛騎士となるラリー君!」


「これなら、安心して護衛騎士を任せられますね。」


休日のJKのような見た目をした子と、生徒会長をやっていそうな丸メガネをかけた茶髪の双子が立っていた。


双子の後ろで薄ピンクの長い髪が風に揺られている。


ひょこっ


聖女服を着こなした聖女のエミがにぱぁと笑顔を見せながら顔を出す。


「やっほ〜!ラリー!まだ2年しか経ってないのに教えることは何も無いって第3皇子に言われた時は(割愛)」


その後も校長先生のような長い長い思い出話がエミの口から次々と吐き出される。


暗殺のリスクを考えてほとんど人間界に顔を出さなかったこと、第3皇子との手紙のやりとり、ラリーの様子など、数えたらキリがなさそうだった。

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