第2章 聖女と里の神獣たち

第23話 神殿に戻ったのに

「ヘンじゃ……ないよね。」


ラリーは頬を赤らめて緊張し、スタンドミラーに詰め寄った。


神殿の騎士の制服を身にまとい、腰に剣が入った鞘を入れる。


19歳となりようやく、護衛騎士となれた。


今から聖女の執務室に向かい、護衛騎士となったことを報告する。


エミに会うこと自体、2年ぶりだった。皇宮に住み込みで訓練していたからだ。


慎重に神殿の床を踏み、氷が割れたように歩く。


神殿の者たちの横を通り過ぎると、誰もがラリーの方を2度見して、ジロジロと覗くような視線を送る。


「あの若さで神殿の騎士とは、かなりの実力者のようだな。聖女さまの執務室に向かうのだろうな。」


「まだ成人したばかりでしょうに、なんてご立派なお姿なの。」


神官たちは感心したり、ラリーの姿に一目惚れしたりした。


ラリーは嫉妬心や憎悪の目で見られていると勘違いをして心の中ではガタガタと震えていた。


鞘をぎゅっと握り、深呼吸をして自分を落ち着かせる。段々と安定してきた。


「素晴らしい若者だな。その歳で騎士になるとは。そなたの実力が良いか、はたまた神殿の騎士試験が緩くなったかだな。さあ、お前はどちらだ?」


ガラの悪いヤンキーみたいな見た目で、大きなハンマーのような剣を持った大柄な男が目の前に立ち尽くした。


右目には縦に傷跡が残っており、腕には蛇の刺青が入っている。


「申し訳ございませんが、僕は聖女さまの執務室に呼ばれているのです。そこを退いていただけますか。」


大柄の男はニヤリと不敵な笑みを浮かべて脚に力を入れた。退く気などさらさらない、妨害をする姿勢だった。


ドスンッ!バキッ!シャー。


力を入れすぎたのか、大柄の男が立っていたところの床だけが割れた。大柄の男が足を移動させると、靴の形がよく分かるほどに浮き彫りになっている。


周りには木端微塵こっぱみじんとなった床のカスが漂って呼吸がしにくい。


ファシャッ。


大柄の男が身につけていた大きな手袋を投げつけた。ラリーの胸に当たってしゅるしゅるとゆっくり落ちていく。


手袋を投げることは、相手に決闘を申し込むしるしとなる。決闘で負けた者は、勝った者の言うことを1つ聞かなければならない。何がなんでも。


本来の騎士なら手袋を手軽に投げることはしない。リスクが大きいし、相手が強欲だったら最悪破産してしまうから。そういう前例がある。


「俺様の名前はケコー・ヨワ。お前も名乗れ。」


「ラリー・ネッドです。」


ケコーは聞いたことがないのか首を傾げ、闘技場に向かった。


神殿は意外と広かった。

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