第18話 ラリーの過去の話 2

神殿に来た時も、どうせ同じだろうと思っていた。


過去の暮らしを忘れ、今の暮らしに絶望し、今の暮らしを求めるしか生きる道はなかった。


「ラリー。貴方は呪われた子なの。あんな母親から産まれたラリーが可哀想で可哀想で。私は涙も流せないほど涙を流したのよ。」


あんな継母が僕のために涙を流すはずがない。


弟だけが可愛いと思っている人だから。


誰も僕を覚えようとも、媚びを売ろうとも、名前を呼ぼうともしなかった。そうする必要が無いから。継母の癪に触って出世が出来ないから。


それなのに……。聖女さまは、僕を覚えていてくださった。名前はあの時言っていなかったから、知らなくて当然。


「あの人、本当に王族なの?」


「どうせ若いから王妃さまが気遣ってくださっているのだ。王族があんなな訳ないだろ。」


王宮の人々はそう言って僕を罵った。反抗しても謝罪1つされずに逆ギレ。なんなら昇給されたという噂を聞いた。


「不快な思いをさせちゃった?ごめんね。わたし気遣いが苦手で。」


「神獣が偉そうに言っていると思ってもいいよ。」


時折その言葉を思い出す。優しい、僕が1度も感じたことの無い温もりと安心感。


今は、贈り物として送られて良かったと思っている。雑用係を辞めて護衛騎士になってほしいと言われた時の嬉しさはどれほどか……。

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