第8話 聖女さまが聖女になられた日

「では、お祭りでお願いします。」


「……祭り?」


時が止まったかのように、身分の高そうな人と、神官さまの動きが止まった。まじまじとわたしを一身に見つめている。


あれ、なんか変なことを言ったのかな?


「なぜ祭りを?」


「亡くなられた聖女さまから聞いた話なのですけれど……」


目を瞑って深く空気を吸った。長い文章を言うかのような構え。


「聖女さまが聖女さまになられた数日後に街でお祭りがもよおされたと聞いたのですが、わたしは何日待ってもお祭りの気配無しなのですけれど!?そりゃあわたしは神獣ですよ?歓迎されていないのは分かってはいますが、少しだけですが期待はしていたのですよ?もよおす気配をひとつでも見せてくれれば仕事なんていくらでもやりますよ?わたしは『ちょこばなな』とか『わたあめ』とか食べてみたいのですよ!」


オタクのような凄まじい早口で言った。エミの勢いで嵐が吹いたかのように神官と身分の高そうな人の髪がボサボサになった。いや、嵐が一瞬吹いたに違いない。


エミは決まったとでも言わんばかりにドヤ顔で腰に手を当てた。


「……そうか、そうか。祭りか。確かに国民の反対が強くて催してはいなかったな。祭りと共に皇室で聖女の歓迎パーティーでもひらいてみるか?」


「いえ。結構です。わたしはお祭りだけが楽しみなので」


「……そうか。それは残念だ。」


身分の高そうな人は呆れたように見えたけれど、優しくわたしの頭を撫でた。傷跡だらけでマメだらけ。オマケにザラザラしている。昔から剣を握ってきた人のような手だった。


剣を握ってきた人の手は触ったことがないのですけれど、なんとなくそう思った。


「聖女のエミ・クロックと言ったか?神獣だと聞いておるが。」


「そうですけど。」


ムスッとした。どうせ悪口のオンパレードになるに違いない。期待しないでおこう。人間というのはこういうもの。嫌いなものはとことん嫌う。


この身分の高そうな人も、神獣を毛嫌いしているだろう。


そんなわたしの姿が面白かったのか、身分の高そうな人はクスクスと笑いを堪えるようにして笑った。


「あはは!君のその表情!好きだなぁ。なんにも怪我をしていなくてもまた来たいくらいだ。」


「お好きにどうぞ。仕事の邪魔をしないのでしたらいつでもいらしてください。あなたも忙しいとは思いますけどね。」


「三男の僕に皇子としての仕事なんてあるわけないだろ……。」


身分の高そうな人は何かを小さな声で呟いた。よく聞き取れなかったけれど、なんだか闇が深そうだからそっとしておく。


「あのぉ、アイザックさま……」


「ん?」


神官さまのアイザックと呼ぶ声に反応したということは、この身分の高そうな人はアイザックという名前で違いない。そうに決まってる。


「聖女さまはこの後もご公務がございますので、お早めにお引き取り願います……。」


「おっと、そうか。聖女さま、数日後には祭りが開いていると思うから、楽しみにしておいてね。」


そういってアイザックという人は去っていった。あの若さでお祭りを無理やり開催できるほどの権力を持つ人は極小数と限られている。


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菜乃みうです


第8話ご覧頂きありがとうございます。


話のオチが下手すぎる。


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