第6話 可哀想な贈り物

神殿の庭園は夜でも葉っぱの緑色や花の赤やピンク色がくっきりとしていてよく見える。


(前までは来たことなかったけれど、こうして見ると美しい。ユートピアにでもいるかのようね。)


焦げ茶色の幹の隣にレジャーシートを敷いて焦げ茶色の幹にもたれかかって、夜空を見上げる。緑色の葉っぱが、星と交わって黄色のように見える。


風に吹かれて葉っぱと葉っぱが当たり、清々しい音が鳴る。耳を心地よく感じさせる。


1人でこうしているのも悪くはない。うっとりとして眠ってしまいそうだった。


カサッ


後ろの方で、音がした。暗殺者か、虫か。どちらかに違いない。神獣は能力に頼りきりで全員が強い訳では無い。


しかもわたしは、サポートに徹するしかない治癒。人間の暗殺者に勝てるはずがない。


虫であることと、わたしの味方を願って、死ぬ覚悟を決めるしかない。もしも暗殺者で、神官が助けに来ても神官たちもわたしと同じ。武力では勝てない。


「……そこに居るのは誰なの?名乗って。」


「ラリー・ネッドと申します。」


神官の名前は全員覚えているつもりだけれど、ラリー・ネッドという名前は知らない。少なくとも、神官ではない。


振り向くと、生垣の前に、金髪とオレンジ色の宝石眼をしたわたしと同い年くらいぽい痩せこけた体型とみすぼらしい服を着た少年が立っていた。


「ここは神殿に住んでいる者以外立ち入り禁止のはずだけど。どこから入ってきたの?警備は?」


「僕はここら辺の雑用係です。今は枯葉が無いか見ていただけで……。」


「……何歳なの?」


「17です。」


人間界の国民は皆こういうものなのか。神獣の里と神殿で育ったわたしには分からない。食事も満足に取れないのだろうか。神獣の里もこういう人が居るのだろうか。


幸いわたしは上流階級出身で生活には困ってはいなかったけれど、国民に目を向けることは無かった。それと同じで、どこの上流階級は国民にほとんど目を向けずに自分たちだけ豊かに暮らしていたのではないか。


頭良さそうに脳を回転させる。わたしこんなキャラではないでしょ。


「……ねぇ、ラリーって前に媚び売りで贈られてきた子?わたし、眠たくてよく顔を見ていなかったの。」


「……」


しばらくの間ラリーは黙った。


「不快な思いをさせちゃった?ごめんね。わたし気遣いが苦手で。」


「いえ。僕のことを覚えていらっしゃったと思うと、嬉しくて。」


「嬉しかったの?」


「はい。」


この子も噂程度にならわたしを知っているはず。わたしが神獣だと言うことを。見下しているからこんなふうにお世辞を言っているのか、はたまた、わたしに媚びを売っているのか。


それとも神獣を好いているから?……有り得ないか。だってこの子元々神殿の人では無いもの。王国の王さまがどこかの国の捕虜をわたしに押し付けただけ。


でも、敵意がないことは嬉しい。人間界で自分が神獣のままで良いんだと思うことができる。


気に入った。少し話しただけなのに、こんなにも感情が高ぶることは初めて。


「ねぇ、こんな雑用係、辞めたくない?」


「辞めたいと思っていても、僕は神殿から出れないですし、辞めたとしても次の仕事にありつけ、生きている保証もありません。」


真剣な顔だった。だけれどなにか思いつめているような、そんな目付きの顔。


「じゃあ、ありつけさえすればいいのね?今の神殿はわたしの思うがままなの。わたしは皆の仕事を管理しているの。人事異動も可能。どう?」


本来ならば優秀な人が評価されるはずなのに、今の神殿は違う。今の神殿は血統主義。貴族が実力よりも高く評価され、平民が実力よりも低く評価される。


もちろんわたしを聖女になるように勧誘したり、神官の問題を重視するんだとか言ってたあの上級神官さまも貴族出身。実力もある人だけれど。


「……僕をどうするつもりなのですか?」


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菜乃みうです


第6話ご覧頂きありがとうございます。


途中私の本音を混ぜましたが違和感がなければそれはエミの本音なのです(?)


あと1人のシーンというのは書けないものですね。2人になった途端の書きやすさに驚きました。


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