第5話 元の姿

「……」


エミは、部屋で珍しく新聞を読んでいた。エミは人間界にいる神獣だから、人間の作る新聞と、神獣の作る新聞が両方とも見れる。


〝神獣新聞号外 聖女の正体が神獣だと判明〟

『先日、聖女の急死により立てられた新しい聖女の正体が神獣だと神殿が明かした。これは人間界でもかなり賛否が分かれている。』


1番目立つような大きな見出しと共に事実が淡々と書かれている。


新聞には賛否が分かれていると書かれているけれど、わたしの思う限りそうは見えなかった。


(どうせ誰かに媚び売りたくて賛否とか書いたんでしょ。あの日の視線は賛なんて1mmもなかったし。元の姿に戻ろうかなぁ。)


神獣は元の姿は動物だ。5歳になれば誰でも人間の姿になれるし、元の姿に戻ることも出来る。


人間の姿でいるには常に力を消費するため、定期的に元の姿に戻る必要がある。


ぽんっ!


たぬきがお腹を叩くような音を鳴らして薄ピンクの雲のようなモワモワを出し、元の姿に戻った。


エミの元の姿はコアラだった。フサフサの薄ピンクの毛、濃いピンクの瞳は人間の姿の時とあまり変わらない。


(眠たい……。やっぱりコアラだからかなぁ。)


ベッドに眠り込んでそのまま寝てしまおうかと思った。しかし、起きたら部屋は地獄と化しているに違いないと思うと、眠れない。


仕方なく眠らずに机の前にある椅子に座った。


(たか……)


コアラの姿だったからか、机が高かった。出来なくはないが、やりにくい。


コアラの姿のまま書類に目を通し、スラスラとサインを書いた。


〝下級神官、一般人に性加害 神官の性加害は今月12回目〟


(12かいめ?神官は全員こんなものなのかな。なんの為の神官だと思ってるの。誰かを助けたいからじゃないの?)


これからは神官の教育もし直さなくてはいけない。やることが多すぎる。


ひとまずは2週間の謹慎。


それともう1つ、神殿は自治権が認められているからわたしが法律を作っても良い。これは独裁とも呼べるけれど、神殿全体の国民性……いや、神官性を良くするためには独裁者の方がマシ!


そう思いながら書類と奮闘していたら、いつの間にか没頭してしまっていて、わたしがわたしでないように、無表情で何時間も集中していた。


気が付くと太陽の周りの下の方がオレンジ色で上の空は、定番の青!という感じの色となっていた。


アメリカの*スリーアウト法を改良し、1回目の犯罪行為は謹慎、2回目の犯罪行為は減給、3回目は神官職を降ろす。つまりは雑用係に転落する。


*スリーアウト法

1、2回目は甘く見られるが、3回目からは終身刑となる法律。現在多くの州で施行されている。


上級神官さまが丁度いらっしゃり、スリーアウト法を真似た書類を渡す。


「ほう。エミちゃ……聖女さまは神官の問題を重視するんだ。」


「うん。神官は人様を助けるのが仕事なのに迷惑をかけているじゃん。」


神官さまは一通り書類に目を通し、少し頷いてそのまま持って執務室を出ていった。


そういえばここは部屋なのだろうか。執務室なのだろうか。ベッドがあるから部屋?仕事を行う机があるから執務室?


空を見ると、既に下の方が白っぽく、上の方が紺色になっている逢魔時おうまがときだった。


「日が暮れるのが早いなぁ。……少し休憩として神殿の庭園に行ってみようかな。」


人間の姿に戻り、白いロングスカートのドレスと、ターコイズブルーのストールを肩落としして、神殿の庭園に向かった。


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菜乃みうです。


第5話ご覧頂きありがとうございます。


今回はかなり勉強になる単語が多いですね。スリーアウト法、逢魔時おうまがとき


何やら妖怪、幽霊など怪しいものに出会いそうな時間として表された呼び名とのことです。


スリーアウト法は普通にネットで動画を見ていて知りました。便利ですね。


ストール ショールを肩落とししているファッション、漫画とかでたまに見ると可愛いからお気に入りです。


明日から金曜日までは毎日1話更新となります。休日はなるべく2話更新したいと思っております。


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