第2話 誕生の瞬間
数日前
「熱が!!発作が止まりません!!」
その日は朝から騒然としていた。いつもなら昼まで寝ている私も、神殿の騒がしさで飛び起きた。
昨日の夜に閉めたはずの茶色のドアは何故か全開となっていて、神殿の、聖女さまの専属の侍女達が、バタバタとあちらこちらに走り回っていた。
その侍女達の手には、漆塗りの桶や白いタオル、綺麗な水があった。
(誰か熱を出したのかな。それなら聖女さまがお治しになれば1発なのに。)
そう呑気に考えていると、こちらが見ていることに気が付いた勘の良い侍女が大慌てでこちらに向かってきた。
寝ぼけていてよく聞こえず、重い瞼がうっすらと上がっている目を擦りながら、侍女の焦っている顔を見た。
数分がして、寝起きのわたしには話が通じないのが分かったのか、聖女さまの部屋へずるずると、わたしの腕を掴みながら引きずった。
聖女さまの部屋の状況を数分してようやく理解して眠たかったわたしは、唖然とした。
熱を出したのは他の人間ではなく、聖女さまご自身だと悟った時のわたしの青ざめようは、どれほどだったか。言葉に出来ないくらい真っ青で、冷や汗が止まっていなかったのだろうか。
「聖女さま!!」
聖女さまの胸とお腹に両手を近付けて治癒の能力を注入した。本来なら治っている熱と発作も、止まる気配が無かった。
そっと、聖女さまのお口に水を含んだタオルから水を垂らしてゆっくりと飲ませる。
効果があるのかどうかは分からないけれど、治癒の能力が効かないと分かった今、これが最善の治療だ。
「え、エミちゃん?治癒の能力は?もしかして、使い切っちゃった?」
「いいえ。治癒の能力は有り余っています。」
「じゃあ、なぜ使わないの?」
「なぜだかは分かりませんが、聖女さまにはわたしの治癒の能力が効きません。多分ですけれど今はこれが最善なのです。」
たくさん人が居るはずの聖女さまの部屋が、しん……っと静まり返った。まるで誰も居ないかのように。
しかし、わたし達の努力も虚しく、数時間後に聖女さまは、そのまま亡くなってしまった。
黒い服を着て聖女さまのお葬式を終えた後、1人の上級神官さまが、わたしに1つのお願いをした。
「エミちゃん。お願いなんだけど、聖女さまが急死してしまって、次期聖女が居ないんだ。だから、エミちゃんにしてもらいたいな。聖女さま。」
「……え?」
口をぽかんと開けて、目をまん丸にして驚いた。わたしの顔は「ばなな」とか言っていそうな顔のようになっているに違いない。
神官さまは、黒いくて手が見えないほど長い袖で手を合わせてヘラヘラしていた。
「わたしは神獣です。神獣が聖女になったら、大衆はどう思うとお思いですか?きっと反発されます。」
「そう?エミちゃんは可愛くて少し抜けてるけど、良い子だからきっといつかは聖女さまとして認めてくれると思うよ?」
いっそのこと聖女さまの決まりを変えればいいのに。そう思った。聖女さまの決まりは以下の通りだ。
1.聖女は必ず女性であること
2.聖女は神殿と神官統治すること
3.神殿の問題と神官に対する罰は聖女が与えること
4.聖女は必要な時にだけ治癒の能力を使うこと
これが問題。4は良いとして、1と2と3がキツすぎる。別に女性ではなくても聖女と呼ばれてもいいのに。聖男とか、呼ばれてもいいじゃん。
しかも神殿はかなり広いし、聖女さまのお仕事をしょっちゅう覗いていたけど、神官の悪事に関する書類が山積みになっていた。
問題児揃いなのが無ければなぁ。
うわぁー。もし聖女になったら故郷に帰れないやつだ。何も連絡を入れずに神獣の里を抜け出したわたしはどうせ歓迎されないけれどね。
「絶対に嫌です。他の人間にも聖女になりたい方はたくさん居るでしょう?その方々を選べばいいじゃないですか。」
「でも神獣の聖女さまって前代未聞だよ?長い間争ってきた神獣と人間が、共存し合えるかもよ?」
希望の光が一瞬視界を明るく照らした。肩が驚いたように上に上がる。
薄ピンクの髪はより一層鮮明に見え、濃いピンクの瞳には美しい光が宿った。
「共存ということは、もう争わなくても良いのですか!?」
「もちろん」
「いつかは人間の街に神獣が、神獣の里には人間が暮らしているのですか!?」
「うん。」
軽い口調で神官さまは相槌を打った。無関心そうにも感じ取れる生ぬるい返事だった。
心が揺らいだ。もしかしたら世界平和をわたしが実現出来るかもしれない。そう淡い期待を抱いた。
「分かりました。わたし、頑張ります!」
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菜乃みうです。
第2話ご覧頂きありがとうございます。
こちらは過去の話です。次回からは先のストーリーに戻ります。
そういえば、魔女って男性でも魔女って呼ばれていたらしいですね。魔男とか、呼ばれなかったんですね。
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