第14話 『たろう』

*****



「たろうがこれからどう生きるかは分らんが、知らないとまずい事、

やったらまずい事をさきに教えていく、いいな。」


「はい」


たろうが元気よく返事を返す。


「はいじゃない、頷くだけか、うん、ぐらいにしとけ。

はい、なんてちゃんと返事する育ちのいいガキが一人でいるとみたら、攫われるぞ。」


「ええっ? そこまでぇ!」


大神殿を辞して、下民区の分神殿に向かいながら、簡単なレクチャーをする。


「まずは、名前だ、きいてるか?」


「は、うん、聞いてる、呪われるんだよね。」


「そうだ、こっちは魔法も呪術も有る。

本名を知られるってことは、携帯のアカウント?を乗っ取られるようなもんだ。

なんかイロイロできるんだろ?」


「う、うん。わりと大ごとになる。」


「むこうなら大ごとですむが、こっちだと死ぬ。」


「うう。」


「次は、ん~、知識チート?はあきらめろ。」


「え、なんでですか?」


「ですはいらない。」


「え、あ、なんで?」


軽く頷く。


「こっちにはな、俺らみたいのがちょくちょく迷い込んで来るんだ。

ずいぶん昔からな。」


「そうなんで、ん、そうなん。」


「で、素人が知っている簡単なことは、とおに知られている。

流行ったかどうか別だけどな。」


「そっかあ。」


「専門家は専門家でもっと不味い、暗殺か、拉致られて飼い殺しだ。」


「うあ。」


言葉を無くし、たろうの顔がひきつる。


「ほら関門が見えてきた、神殿でもらった鑑札を用意しろ。」


「うん。」


「お役目、ご苦労様にごぜぇます。

ドブ浚いにごぜぇます。」


鑑札を見せる。


「こいつは神殿預かりの小僧にごぜぇます。

分神殿へ案内を頼まれやした。

ほら、鑑札みせねえか。」


「あ、う、うん」


たろうが慌てて鑑札をさしだす。


「ふむ、迷い人か?」


「へい。」


「神殿預かりとは運のいいやつだ。」


「まっこと。」


「ああ、通ってよし。」


「ありがとうごぜえやす。」


頭を下げて門を抜ける。


「神官様とお役人には丁寧に話せ。

わかるな?」


「あ、うん。」


「身分がホントに有る世界だ、言葉遣いひとつで斬られることもある。

気を抜くなよ。」


「わ、わかった。」


「さて、何話したか、ああ、チートのこと、言ったな。

じゃあ、神様の加護のことだな、加護はもらったな?」


「うんっ! ま」


「言うな! 加護はお前の武器だ。

たやすく人に教えるな。」


「あ、うん。 でも、」


「ま、相手をえらべ、今日会ったばかりのヤツに話すもんじゃない。」


「わかった。」


「ん、加護のことは加護をくだすった神様の神官様に訊け、それが一番いい。」


「うん!」


「それとな、この世界の人間はみんな神様に加護をもらっている。」


「うん。」


「でも、中には貰えなかったり、断るやつもいる。」


「うん、加護をもらうと神様が離してくれないって。」


「そうだ、俺はひとりもんだったからな、帰れるかどうかわからないのに無手無刀はな。」


「うん、僕もみんな死んじゃったから。」


「そうか、でも僕はやめとけ。」


「あ! 俺、俺。」


「それで、これから行く、分神殿な、断ったヤツがいる。

いろいろ事情が有るんだが、帰るつもりらしい。

ただな、加護無しは、人扱いされないんだ。

ヒトモドキ、魔物扱いされる。」


「そんなの…。」


「ここ、迷宮城市はマシさ、なんせ、魔物が冒険者として迷宮に潜るくらいだ。」


「え?」


「迷宮にさえ潜れば何でもありなんだよ、ココは。

お、分神殿が見えて来た、分神殿長様にあいさつだ。」


「うん。」


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異世界でドブを浚う。 @mokamoka

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