「草刈(イミコワ)」

低迷アクション

第1話



 「おーいっ、とっとと片付けんぞ?」


先輩の声に頷いた“N”は、草刈り機のスイッチを入れた。


飲み屋で知り合った彼は、道民(北海道)の出身であり、トンネルや道路の維持作業に従事していた。


Nが、その仕事を辞めたのは、ある理由からだ。


8月某日、担当した業務は、橋の下の雑草が繁茂する場所で、人間大にまで伸びた草を刈る事…


草刈り機を動かし、棘だらけの枝や、芯の厚いモノを伐採していく。すると出てくる、出てくる…


「古着に生ごみ、空き缶は、まだマシな方でね。長距離運ちゃん達が用足したビニ袋とかを刃に引っ掛けると…そりゃもう…


と、とにかく、そーゆう草が茂った場所はさ。人に見えないから、何でも捨てるんだわ。だから、刈って、全部見えるようにする。そうすると、捨てるの減るからさ。

実際…だから、今回も、そーゆう仕事だと思ったんだけど…」


半分程を刈り終えた所で、妙な事に気づく。夏場と言う事もあり、虫が多いのは、わかるし、慣れていた。それにしても多すぎる。特に蠅…随分と大きい、まるで、

スズメバチだ。


疑問に思った所で、気づく。


「飛び降りの名所なんだわ。そこ…ネットでも話題だし、地元じゃ有名…そりゃもう年に4~5回、多い時は二ケタなんて話もある。虫デカいのも納得だ。土壌が良いんだよ。肥料になる栄養が豊富だからな」


実際、生え方が可笑しい…草木がなぎ倒された後に、そのまま地面を這ったような場所をいくつも見た。これらは例外なく、土中の虫や蠅の生息環境になっている。


「勿論、臭いとかは残ってないんだけど、何だか気分悪くてね。だから…」


休憩時、群がる虫を気にもせず、弁当を食べる先輩に閉口しながらも、どうにか

口を開け、業務の目的を問う。


面倒臭そうに、頭を掻きながら、彼が答えた内容は、予想通り、いや、それ以上だった…


「あーっ?自殺防止、そうだよ。お役所から頼まれてさ。草刈ったら、真っ平らで

丸見えだろ?よく見えんだよ。自分がどうやって死ぬ所がよ。


こんだけ草が繁茂してっと、下見えないから、何か別世界とか、神秘的、死ぬの痛くなさそうな印象だけどよ。刈れば、岩肌剥き出し、ゴツゴツ、頭カチ割れ確定コースってわかるだろ?どんな馬鹿でも…そーゆう意味でここを刈るんだよ?」


先輩の話を聞くんじゃなかったと後悔する。だが、それで、飛び込みが減るならと、割り切って作業を終えた。


しかし…


「増えたんだわ。逆に…飛んだ一人目のグロ画像が裏サイト載った後に、

どっかのユーチューバーがモザイク付きで上げやがった。


“一瞬で死寝る。死に映え絶景スポット”


バズったよ。その手の自殺願望者達に…ホント馬鹿だよ。死んだら承認欲求もクソもないのに、煽ったり、煽られたり…ニュース見た?


“売れなくなった、零細ユーチューバー、人気回復のために飛び降り”


勿論、即死…それでも、次の対策出るまでは、同じ事やらなきゃいけない。それが

お役所仕事だもんな。行政は仕事を全部、現場に丸投げ、辞めたよ。色々やんなった」


酒を一杯煽った彼は、しばらく黙った後、言付け加える。


「ホント、人間が一番怖いよ」…(終)

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