第23話 決起集会(参加者2名)
「はづき園」から帰ってきた次の日、俺はちゃんとモトナリに謝った。
この間はお前の気持ちも考えずに偉そうに言ってすまなかったと謝ったあとに、今まで通り手助けして欲しいと頼んだ。
するとモトナリはしばらく驚いていたけど、意外と簡単に許してくれた。自分も図星を指されてムキになってごめんと謝ってくれた。
――その後、俺は『空森』が隠していたもののことを、モトナリを部屋に呼んで全部話した。
アレの実物を見せて、俺がここまで調べた『空森』のことも出来るだけ話した。八重石から聞いた話も、桐原さんから聞いた話も、花巻千代女のことも。
それで最後に「どう思う?」と聞いてみた。
モトナリは当たり前だけどしばらく固まっていた。
聞いてから、俺は今コイツに何を答えて欲しいんだろうと思ったから、考えてみた。
「……正直、何もわからないけど、とりあえず考えたのは」
ああ、俺はたぶん、これから自分がどうしたらいいかを誰かと一緒に考えたかったんだ、と気付いたのと同時くらいに、モトナリも動き出した。
「一つは、絶対これ、他の人に言わない方がいいってことなんだけど、……冬空君、もしかして」
「大丈夫。お前以外にはまだ言ってない。てか、俺が『空森』じゃないって知ってんのもお前だけだし」
そっか、とちょっと嬉しそうな反応をするモトナリを見て言い方ミスったとは思ったけど、まあ事実だ。仕方ない。ちょっとキモいけど。
「で、他は?」
「あ、うん。もう一つは、前に空森君が言ってたのを思い出して。お互いなんで防備官になりたいのかって話になったとき、空森君、みんなが同じように安心できる国にしたいって言ってたのが、そういうことだったんだな、って」
「……なんで『みんなが安心できる国』で、八重石殺すって話になんだよ」
「……それは、わからない。でも、それが……八重石さんを、その、殺す、ていうのが、俺が知ってる空森君と、全然繋がらなくて」
やっぱり他の奴から見ても、そういうことになるらしい。
なんだかんだいって俺は直接『空森』と会ったことがなかったから、微妙に不安ではあったんだけど。
「そう。やっぱわかんねーんだよな」
「うん。でも、ちょっと現実味がない話だったら、考えられなくもないのがあるんだけど」
「どんな?」
「……えと、その、空森君が持ってた文書が本物だったとしたら、それってすごい組織っぽい気がして、で、そういうことする組織って言ったら、シンゲ隊、だと思うんだ。シンゲ隊っていうのは、真実の真に化けるって書くんだけど、進然教っていう宗教の、過激な人達の集団って言われてて……、ただ進然教はこの人達の存在を認めてなくて、完全に作り話って言ってるんだけど」
「モトナリ」
「え」
思わず、声が出てしまった。
わからないものが一つわかったような気持ち良さがあって、俺はそのとき、とにかくその気持ち良さを誰かと共有したかった。
「俺、『空森』がいた養護施設のこと、そこまで言ったっけ?」
「え。と、そこまでって……あ。も、もしかして!」
それとこの快感には、こんなに思い通りになることがあるのかっていう驚きと嬉しさもあったんだと思う。
いや、でも、別に運が良かったってわけでもないのかもしれない。モトナリがこうやってすぐに気付くってことは、割とこっちじゃ普通のことだったんだ。
でも俺は知らないから、いくら考えたってわかるわけがなかった。
ちょっと謝って聞けばわかる、簡単なことだったのに。
「『空森』がいた施設は、バックにその進然教ってのがあった。昨日行ったときは、そこまで気にならなかったけど」
「……、そっ、か。でも、進然教自体は、それほど危ないものでもないんだよ。色々慈善事業にも手を出してたり、ただ、世間的には、ちょっと面倒というか、一部が危ないかもしれない、でも日本ではそこそこ大きい宗教、って感じだから……」
たしかにあの「はづき園」には、そんな危ない宗教みたいな感じとかは全くなかった。
でも看板に「進然教」って書いてたのは絶対だし、アレが個人の作り物にしては完成度が高すぎるってのも事実。……そうだ。そこまでは確実なんだ。
あとは、
「その『真化隊』、てのが、どこまで本気で考えていいのかによるって感じか」
「……うん。でも、俺は実在するんじゃないかと思ってる。その、確証はやっぱりないんだけど、警察とかも本気で調べてるくらいだし、防備隊だって、そういう調査に駆り出されることがあったりしてるから」
誰かの悪ふざけとか都市伝説で済むくらいなら、そんなに大人が動くことはないのかもしれない。でも、結局は「かもしれない」って話で、これは確実じゃない。
確実じゃないけど、ここまで知ってきた『空森』と照らし合わせてみると、考えないわけにもいかない気がした。
気がしたのは、やっぱり『空森』がそんなしょうもない理由であんなものを作るとは思えないから。
それと、
「てか、もしそういう集団が、マジであったとしたらさ、だいぶデカい話になってくる、よな?」
「そう、だね。日本政府が、未だに見つけられてない組織に、空森君が属してたかもしれなくて、しかもその組織が、八重石さんのことを狙ってる」
たぶんそれは、考えられる中どころか、考えてもなかったくらいに最悪の可能性だった。
『空森』一人の頭がおかしいだけだったら、たぶん簡単にどうにかできた。いや具体的にどうするとかは考えてないけど、『空森』が八重石に手出しできないようにするのは、そこまで難しいことじゃないはずだった。
でも、そんな組織とかが敵だとか。
一瞬、バカみたいだとは思った。
謎の組織とかマジでありえんのかよとは、どうしても考えてしまった。俺はもしかして考えすぎて、現実的に考えれてないんじゃないのかと思った。
現実的かって言えば、たしかにそうじゃないと思う。でも俺から言わせてもらうと、全く現実的じゃなかった今までの色々に比べたら、割と現実的な方じゃないのか。
現実的に、普通に考えるっていうのは、絶対にあり得ることしか考えられないってことになる。今まで俺はそうやって考えてたから、こっちで起きた色々がなかなかわからないんだ。
あとこれは今気づいたんだけど、俺はたぶん話がデカくなることを信じたくないって思ってる。
正しくはわからないけど、考えるのをやめようとしたのにも、そういう意味があるのかもしれない。
だから今回は、バカみたいなことでも考えてみることにした。考えてみるべきだと思えた。
もしこれが本当にバカな妄想だったら、そんときはそんときで、モトナリとバカだったなって笑えばいい。
「……ちょっと信じたくない話だけど」
俺の覚悟が決まった少し後に、モトナリは声を震わせながらそう言った。そう思うのは俺も同じだった。でも、
「もし、あの人のために、何かできるなら、したい……!」
そこも同じみたいで、正直ちょっとホッとした。
最悪一人でもどうにかしなければとは思ってたけど、どうにかしてやるって思えるほど度胸があるわけでもなかった。
……まあ。
「つっても、何ができんのかは、全くわかんねぇんだけどな」
「それは、そうだね……。でも、考えないと」
考えてこれは答えが出ることなのか。そもそも俺たちだけで考えてていい問題なのか。
わからないことだらけだ。でも少なくとも、考えないといけないってのはわかった。
とりあえずは一歩、動き出せたような気はした。
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