第6話 防備隊総合利術学校の案内



 モトナリと握手をして、二人で缶コーヒーを飲み切ってから、俺たちはこの「防備隊総合利術学校」を見て回ることにした。


 最初に思った通り、やっぱり広い学校だった。

 てか、広すぎる学校だった。敷地はパンフレットの地図だと綺麗な正方形で、それを真っ直ぐ横切って歩いたら十五分かかった。しかもやたら運動場やらデカい体育館の数が多くて、クソ暑い中二時間以上かけて見て回ったのに、全然場所は覚えられなかった。


 その後は寮の地下の大浴場で汗を流して、隣の食堂で夕飯から部屋に戻った。とにかく疲れすぎていて、ちょっとベッドに倒れ込んだだけのつもりが気付いたら朝だった。


 ここの寮は起床が六時で、朝から頭が割れそうな音量のチャイムで叩き起こされた。信じたくなかったけど、部屋の天井にスピーカーがあった。


 二日目は、約束した時間ピッタリに迎えにきた金剛の車に乗って、ここの校長へ会いに行った。

 絶対サングラスかスキンヘッドか顔に傷痕があるかのやべえ奴が出てくると予想してたら、サングラスでスキンヘッドで額に横一線の傷痕があるやべえ奴が出てきた。しかも名前が虎岩だった。虎岩権助だった。それでやっぱり、そんな見た目のくせに優しかった。


「校長の虎岩権助だ」の直後に、「私のことは第二の父と思えばいい。不安があれば、どんなことでも語ってくれ」と真顔で言われた。やべえ奴なことに変わりはなかったけど、なんか頼もしさは凄かった。


 それから少し、寮の食事はどうだとか、体の調子はどうだとか何でもない話をしてから、虎岩は『空森』の境遇について話してくれた。


『空森』は小さい頃に両親を亡くして、施設で育ったらしい。

 だけど空森は実の両親の名字で、『空森』は誰の養子になることもなく、ここへ入学した。ここは在学していることが「公務員としての勤務」となって給料が出るらしく、『空森』には都合が良かったんだとか。


 聞いていて、俺と比べてかなりハードモードな人生だとは思ったけど、やっぱりどうしても他人事に聞こえた。今その立場にいるのは俺だけど、俺の親は普通に生きてるし、俺は施設で育ってない。すごく勝手なことを言うなら、むしろ今の一人暮らしができてる状況を羨ましいとも思っていた。


 そんな感じの反応をしてしまっていた俺に虎岩はちょっとだけ眉毛を動かしてから、少し一緒に運動をしないかと言ってきた。反応に困って金剛の方を見ると、首を縦に振られたので、俺も思わず「はい」と言ってしまった。


 ……それが失敗だった。それは「少し」でも「運動」でもなかった。いきなり二時間くらいランニングさせられて、やっと終わったと思ったらなんか重い木刀を五百回くらい振らされた。あと追加で正拳突きの練習もあった。五百回くらい。あれは「修行」の方が正しかったと思う。モトナリまで付き合わせて、素直に謝るレベルでキツかった。キツいなんてもんじゃなかった。


 結局そこからは、前の日と同じだ。ベタベタのクタクタで帰ってきて、風呂、飯で終わり。



 ――それで気付いたら、俺にとっての登校初日になっていた。

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