かくして、わたしは翔くんのパートナーになれるかな?

「う~ん……」


 腕組をしたまま唸る翔くん。

 ここは新大阪駅のおみやげ屋さんの中だ。


「ご当地キーホルダーがいいか。それとも阿万音が確実に大好きだとわかっている、ヌイグルミがいいか……」


 視線の先は、大阪らしくたこ焼きをモチーフにしたキーホルダーと、お世辞にもかわいいとは言えないオジサン顔のたこ焼きヌイグルミが、売り場に並んでいる。

 この状態で数分。

 悩める翔くんを眺めていられるわたしにとっては、にやにやとした至福の時間だけれど。

 残念ながら、帰りの新幹線の時間は決まっている。


 そんなわたしの視界の端に、悩みを解決するアイテムが飛びこんだ。

 ちょんちょんと翔くんの腕をつっついて、そのアイテムを指さす。


「ねえ、翔くん。あれなんてどう? 手のひらサイズのヌイグルミ、たこ焼きマスコットのキーホルダー。両方を兼ねているかもよ」


 とたんに、翔くんの瞳が輝いた。


「なるほど。その手があったか」


 そう言うと素直な翔くんは、キーホルダーを手に取って、いそいそとレジへ向かう。

 どうにかおみやげも決まり、わたしとサコ爺はホッとした。


 ヌイグルミ好きだという妹ちゃん。

 手触りがよくて抱きしめられる、もふもふとしたヌイグルミが好きっていうのであれば、微妙なおみやげになるだろう。

 でも、売り場で真剣に悩んだお兄ちゃんからのおみやげというだけで、彼女は喜ぶんじゃないかな。なんて思ってみる。


 そのあと、お肉が美味しそうだったから、神戸のビフカツ弁当といった駅弁を三人分ゲットして、新大阪から新幹線に乗った。

 窓の外は、とっぷりと日が暮れている。

 泊りじゃなくて、日帰りだものね。

 サコ爺が、帰りの指定席を確保してくれていてよかった!


 三席横並びで、翔くんが一番窓際。

 サコ爺が、安全を考慮して通路側。

 わたしは必然的に真ん中だ。

 これからしばらく隣の席だなんて、すごく照れちゃう。

 えへへ、おじゃましまぁす。


 けれど、話をするわけでもなく、駅弁を食べたあとは、翔くんは話しかけるなと言わんばかりに、窓のほうに体を向けて、持参の小説を読みだした。

 うん、仕方がないよね。

 急に、話が弾むようになるとは思わないものね。


 なので、わたしはサコ爺と、とりとめなく世間話をする。

 サコ爺って、忍びと同じような仕事をするお庭番。

 だから、情報収集のわざなんか聞くと、とっても面白い。


 新幹線の中だから、サコ爺とわたしは、ひそひそとしゃべっていたんだけれど。

 ふと、わたしはなにげなく翔くんのほうを、そっとうかがう。

 なんと翔くん、寝落ちしているではないですか。


「翔くん……」


 声をかけようと思って、やめる。

 きっと、疲れたんだよね。


 窓のほうへ顔を向けて、静かに寝ている翔くんの手から、半開きの本を抜き取る。

 翻訳された小説だろうか、カタカナのタイトルで、文字がびっしり。

 なんだかむずかしそうな本だ。

 わたしは、前の席の背にくっついてある、小さなテーブルの上に、本を置いた。

 そんなわたしに、サコ爺が言った。


「翔くんは、この数日間で、表情が豊かになった気がしますね。凛音さんのおかげでしょうか」

「え? 本当に? そうかな?」


 サコ爺からそう言ってもらえて、嬉しいな。

 休み時間、ただ教室の机の前に座って、無表情で本を読んでいた翔くん。

 この件にかかわって、わたしも、翔くんの驚いた顔も怒った顔も、それに困惑した顔も辛そうな顔も見たもの。

 いつか――思いっきり笑った顔が、見たいなあ。


 サコ爺が、話を続ける。


「なんでもできるからといって、私がすべて一人でやるわけにはいきません。手助けも限界がありますし、翔くんを十一代目として育てなければならない」

「はい」


 わたしは、神妙な表情でうなずく。


「でも、ここ数日間のきみを見ていて、サポート役に特化したきみが一緒であれば、翔くんもきみも、うまく育つ気がします」


 わたしは、パッと顔を輝かせた。

 サコ爺のほうへ、ガバッと身を乗りだす。


「それって?」

「ええ。私からもお願いしますよ。これからも、翔くんのお助け係をしてもらえるかな」

「もちろん!」


 わたしは、満面の笑顔で返事をする。

 そして、翔くんを起こさないように、控えめにガッツポーズをする。

 そんなわたしに向かって、サコ爺が続けた。


「じつは、凛音さんのおじいさまとは、すでにお話がついております」

「え?」

「凛音さんは、おじいさまからの修行を、真面目にうけていらっしゃらなかったと。ですが、実際に体験しながら知識を養い経験を積むというのも、ありでしょうと、おじいさまから許可をいただきました」

「そうだったんだ……」


 わたしは、しんみりとこうべをたれた。


 おじいちゃん。

 いつも言うことを聞かないわたしで、苦労させていたんだ。

 ごめんね。

 でも、わたし、心を入れ替えたんだ。

 しっかり学校の勉強もする。

 知識を増やす。

 経験を身につける。


 わたしは、顔をあげた。

 サコ爺の目を見て、口を開く。


「ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いします!」

「身内には甘くても、他人から、学ぶとなれば厳しくできるというもの。ビシビシしごかせていただきますよ」


 その言葉に、わたしは胸を叩いた。


 ひとりだけの修行はやる気がでないけれど。

 もちろん、翔くんも一緒に修行なんだよね?

 だったら、こっちからお願いしたいくらいよ!


「まかせて! 翔くんと一緒なら、どんな修行も頑張っちゃうから!」


 わたしの返事を聞いたサコ爺も、嬉しそうに笑った。


「そうですか。よかった。戻ったら、次の依頼がきております。都市伝説のメリーさん、期待しておりますよ」


 その言葉を聞いて、思わず立ちあがったわたしは、くるりと体を回転させながら、自分の席に着地する。

 そして、すべるように走る新幹線の座席の背に、がっくりもたれた。

 自然と口もとに、苦笑が浮かぶ。


 ああ、次の都市伝説も一筋縄ではいかない気がするわ。

 それにしても、今度はメリーさんか。

 受けてたつわよ、わたしと翔くんのふたりでね。



 そして、サコ爺だけじゃなくて、いつか翔くんに認めてもらうまで。


 わたしはお助け係、頑張るからね!




       おわり

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