くらえ! 息の合ったふたりの技を!

 体当たりを食らわせたことで、ジャンピングばばあは、調子に乗ったらしい。

 橋の向こう側に着地して、横柄な態度でニヤッと笑った。


「ハナたれの小むすめが。ワシをつかまえられると思っておるんかい」


 わたしは、立ちあがる。

 気持ちは満タン。


「凛音、あせるなよ」


 翔くんが、そっとささやく。

 そばに、心強い翔くんがついてくれている。

 わたしはうなずいて、大きく深呼吸をした。


 橋の向こう側まで、見通しのいい一直線。

 見た目が手ぶらであるわたしをナメているジャンピングばばあは、油断している。

 両手を前に突きだして、わたしは、親指と親指、人差し指と人差し指をくっつけた。もう一度「在」の形を作る。

 三角形の中をのぞきながら、おばあさんの姿をとらえた。

 その瞬間。


『ターゲット・ジャンピングばばあ、ロックオン』


 AIの合成音が、わたしの耳に響く。


「捕縛!」


 言霊を、一気に吹きこんだ!

 たちまち、複数の半透明のチェーンが、おばあさんめがけて、一斉に襲いかかる。


 おばあさんは、これはマズいと気づいたらしい。

 慌てて高く、跳ねあがる。


 甘いわ!

 発動した術から、逃げられると思わないでよね!


 チェーンは、意志を持っているかのように、ぐんぐんおばあさんを追いかけた。

 伸びあがって追いついたチェーンは、おばあさんにぐるぐると絡みつく。

 そして、あっという間に地面に引き戻した。

 地面すれすれで、おばあさんを蜘蛛の巣にかかったように固定する。


「やったあ!」


 思わず、わたしはガッツポーズ。

 そして、おばあさんのところに駆け寄る翔くんのあとを追いかけた。



 おばあさんはわめきながら、全力で跳ねあがろうとするけれど。

 成功したわたしの言霊のチェーンは、頑丈だ。

 トランポリンのように、チェーンがゆらゆらと揺れるだけ。

 そんなおばあさんのそばに、翔くんは狙いを定めるように近寄った。

 サラッとした音を立てて、刀を鞘から抜く。

 そして、一刀両断。

 一瞬で、ジャンピングばばあはチェーンごと、空気にとけるように霧になって消えた。


「ん~。これで、一件落着かな」


 わたしは、刀を鞘におさめる翔くんの顔をのぞきこみながら、明るく言った。


「――ああ、そうだな」


 そう返事をした翔くんの顔は、大喜びしている表情ではない。

 けれど、花子さんのときのような、辛い顔でもなかった。

 わたしは、二ッと笑っておどけた。


「今回、お助け係として、わたしが感じたことは、翔くんの体力不足ですかね?」

「うるさいな。この体力バケモノ女」

「なにそれ、ひどい!」


 わたしと翔くんは睨み合う。

 そのあいだを、サコ爺が笑いながら割ってはいった。


「そうですね。教育係としては、これから翔くんには、刀術とともに体力向上が必要だと感じましたね」

「ほ~ら! サコ爺も同じこと、思っているじゃない?」

「そして、凛音さんは、格好にこだわらず、術の成功率をあげる訓練でしょうね」

「ぐっ」


 笑顔を浮かべるサコ爺の前で、わたしと翔くんは仲良く押し黙った。


 サコ爺の笑顔が、こわい。

 ああ。

 これはきっと、修行が厳しくなるやつだわ。

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