第20話 (オマケ)結婚式秘話(執着怖い)

******


ちなみに……。


結婚式には、デビルの精鋭が騎士様の考案した見事な組体操を披露してくれました。


デビルが下段で、一番上では騎士様が大きな旗を振ってくれました。


『ご結婚おめでとう!』


デカデカと刺繍された金と深紅の旗の文句は、ドラゴン城で刺繍の技を磨いた騎士様たちが夜なべして縫ってくれたそうです。


「生地が厚くて硬いので男の手でないと無理でした」


誇らしそうに報告してくれた。


さらに、上空ではドラゴン様が舞い、圧巻だったのは火を吐いたうえで、雷鳴のような咆哮を聞かせてくれました。


サービス過剰で、失神者が続出、デビルたちが担架を手早く用意し、人間業とは考えられないほどの迅速さで、お城の救護室まで運んでくれました。人間じゃないので、まあ、そうか。

後日、失神者を助けた心優しいデビルたちは、優れた身体能力ともに大人気となり、人間社会に好意を持って受け入れられました。

何が素晴らしいって、これでデビルたちのお悩みどころだった嫁不足がスムーズに運びだしたことです。人間と結婚して街で暮らすデビルも増えだしました。歴史の転換点です。

組体操、見事だったしね!


なんだかんだで大好評、歴史に残る結婚式になりました……。



特にドラゴンショーは大人気で、再演希望が王家には殺到しました。


これには私が責任をもって拒否しました。

うちのお父様を見世物にしようだなんて、とんでもないわ。一人金貨十枚くらい払うならとにかく、ただ見しようだなんてずうずうしいったらありゃしない。


「ナタリアの優れた金銭感覚にはいつも驚かされるよ」


「そうでしょう? それに、どこからどこまでの席が金貨十枚か悩んでしまうわ」


「そのフェアな考え方も素敵だ」



王国は平和になり、私たちには念願の子どもも生まれて、とても幸せ。

でも、そんなある日、母からヘロリ国王あてに手紙が届きました……


『驚かないでね。ナタリアに弟が生まれたの!

ドラゴンに子どもは生まれにくくて、一人生まれるかどうか。それが二人も生まれるだなんて、私たちって、よっぽど相性がいいのね!……』


「ここは読み飛ばしましょう。大したことは書いてない」


「うむ。重要なのは弟君の誕生だな。早速お祝いの品を考えなくては」


『ドラゴンの子は、男の子はドラゴン、女の子は母の属性を受け継ぐの。なのでナタリアは魔女だけど、弟はドラゴンです』


「えっ?」


そうなの?


『で、早速で悪いけど、祝いの品に、兄上の第一王子様が欲しいんです。教育係に』


第一王子殿下? すっかり忘れていたわ。


ドラゴン討伐隊をバックレた第二王子と第三王子は、いわば日陰者の身となってしまったけど、あの後、こそこそ社交界にも出入りするようになりました。でも、第一王子は一体どうしていたのか。


「え? 兄を教師になんて、頭が固い人間にならないか?」


『デビルよりずっと高度な教育を受けているし、今はドラゴン教に帰依して修行の日々です。喜んで教師になってくれるそうなんです』


「そんなことをしていたのか……」


そんな宗教、あったのか。


「……お祝いがタダで済んでよかったわね?」


『それからナタリアに伝え忘れていたんだけど、魔女やドラゴンの愛には愛する人の寿命を伸ばしてしまう副作用があるの! そのほか体力、筋力、精力ともに、強力アップしてしまうのよ。旦那にばれると体力がもたないから気を付けてね!』


…………ううむ。私は夫の顔を見ないようにして盗み見た。


夫の顔が本気で嬉しそうにほころんでいく……なぜ?


「僕が死ねば、君は再婚するだろうと思っていた」


「そこまで考えていませんでしたが……」


「独り占めできないとあきらめていた……でも!」


夫は手紙を私の手から取り上げた。


「君との愛にそんな効果があったとは! これからも精進させてもらおう! そして君の一生を僕だけのものにするんだ!」


うちの母は見た目、威厳あふれる貴婦人風だけど、割と適当で、お調子者で、手紙の書きぶりもイマイチ意味がよくわからない。

そもそも一体、誰宛ての手紙なのか。

用件が第一王子をプレゼントして欲しいと言う内容だったので、夫あてだったようだが、後半から文面的に私宛になっている。

夫にばれないようにって、夫あての手紙に書いちゃダメじゃないか。


夫は羽ペンを取り上げると、インク壷に突っ込んだ。


『謹啓。お義母様。息災でお過ごしのとのこと、何よりです。またドラゴン様のお世継ぎがご生誕あそばされた吉報を耳にし、慶賀に堪えません。愚兄第一王子でございますが、ご存分にお使いくださいますよう。なお、愛するナタリアと末永く暮らせるアドバイスありがとうございました。仔細を伺いたく、ドラゴン様世子の祝賀に参上したく存じます。敬具。ヘロリ国王』


秒で書き上げると、彼は、お使いのデビルの手を握って、「ありがとう。これ、マーシャ様に渡してね」と頼んでいた。チップも弾んでいた。


「可能性があるなら、僕はいくらでも頑張れるよ! 夜でも昼でもオッケーさ!」


彼は私の方を振り返ると、キラキラした目線で宣言した。


え……。

……今更ながらマズいものを釣りあげてしまった気がする。一国の王だけども。





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ドラゴン退治に徴集された(偽)聖女ですが、結婚はお断りです! buchi @buchi_07

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