きっともうこない

釣ール

サバイバル感覚

 あれは何年前の話だろうか。

 もっとも思い出して何になるというわけでもないか。


 二〇一六年。

 大した思い出はなくてアニメとか面白かったなあと他の人間には「好きなものはない。」と嘘をいて幸せとは何かを考えていた。


 でも思い出せる過去で笑えることはひとつもなく、ただ暴れることしか出来なかった中学時代を周りから否定されただけだった。


 権力のある者がいつも無法者むほうもので、日々を波にもまれながら生きている自分だけなぜこんな目にあうのだと碌鎖ぱいそんは周りへの目線をするどくいつも観察していた。


 きっと悩みは消えない。

 それでも余計な傷が増えるのは今自分が考えている幸せが自分のものではない、他人や社会に塗り替えられたものなのかもしれない。


 自転車整理をしている年寄りの「いい事やってますよ金は歳取っても欲しいけれど」という不気味な欲望は見え透いているからいつかここを出てやると誓う。


 その前に少しだけ碌鎖ぱいそんは恋をしていた。

 今どき過激な行動なんて中学生でも流行らないが野性的な人間は異性に好かれていた。


 同じ筋肉質でも何故か違う。

 個性だなんだと言わなくても人生や立場が違えば好かれる理由は違う。


 人間は糞でしかない。

 どこまでいっても知能指数は決まっていて、しかるべき職業にいたって内面では人には言えない欲望を外で取りつくろっているだけだ。


 それでも恋はやめられなかった。

 恋の相手から彼を奪おうと喧嘩になってまで。


 現実は結局残酷なだけだった。

 ここまでして人間と恋をする理由がわからない。

 だからこそ中学卒業と同時にここから離れることを決意した。


 二〇二四年。

 線香花火を冬に楽しんだ。

 花火がやれる場所も限られている。


 新天地での人間関係は不安だったが、今は暴力にも幸せにも頼らずかといって何もかも諦めず好きなことをした。


 あのまま残らなくて良かったと思う。

 どれだけ利便性が良くても。

 そもそも好きな場所で産まれて過ごすことなんて出来ないんだ。

 余計な考えはもう捨てた。


 やがて碌鎖ぱいそんも歳をとる時。

 田舎でふさぎ込んで洗脳されてしまった年寄りや都会で居場所がないまま迷惑をかける年寄りにもならないように勉強とアップデートを続ける。


 結局憎しみなんかなくなりゃしないのだから。

 好きなことで苦しむこともある事実を忘れず、今日も花火同盟はなびどうめいと遊ぶのだった。

 永遠なんてないのだから。

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きっともうこない 釣ール @pixixy1O

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