第28話 贖罪

 俺は話のついでに、マリス君に向かって「パニック障害の人は運動した方がいいって本に書いてあったよ。去年くらいにベストセラーになった『運動脳』って本に書いてあったんだけど」と、言ってみた。正直言って、専門家でもない人間が聞きかじった知識を病気の人に伝えるなんて、間違っている。言った瞬間、俺は後悔していた。


 彼は「できるだけ歩くようにしてるんですけど。行くところがなくて」と答えた。


「江田さん、マリのこと外に連れて行ってやってくださいよ」

 ジュード君が明るく言った。

「うん。どっか行こうよ」

 俺はその場の勢いで言った。

「でも、悪いから…江田さん、忙しいし」

 マリス君は、さっき俺に謝って、もう、十分だと思っているようだった。

「遠慮すんなよ」ジュード君がマリス君を肘でつつきながら言った。

「うん。俺、離婚して暇だし」うわ。言ってしまった。

「え?いいんですか?本当に」俺の言葉が社交辞令なのか、まだ、判断しかねているようだった。

「じゃあ、今、約束しようよ。いつがいい?」

 

 俺は言った。


 あとで気が変わらないように。

 当日になってから、やっぱり急用ができて、なんて風には俺は言えない。


 彼は笑顔になった。

そして、ポロポロ涙をこぼした


 本当に、ごめん。

 俺は心の中でもう一度詫びた。


 今度こそ、とことんまで彼に付き合うんだ。

 俺は決めた。

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俺とコロナと掃除の子 連喜 @toushikibu

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