第31話 真実と真実らしさ

「汝よ、これこそが、六芒星が〈ダビデの星〉と呼ばれるようになった逸話なのじゃよ」

「なるほど。でも、ボクが『旧約聖書』で読んだ話とは違うような……」

「『違う』っと言われても、ワシは、実際に目撃した事を語っただけじゃしな」

「それじゃ、なんで、『旧約』には、ありのままの事実が書かれなかったんだろう?」


 灯は、タブレットでネット検索をかけ、ヒットした『旧約聖書』における〈ダビデとゴリアテの戦い〉の場面を描いたテクストを声に出しながら繰り返し読んだ。


「たしかに、『サムエル書』には、『ダビデ投石索(いしなげ)と石をもてペリシテ人にかち』と書かれていますね」

「ふむ。その点は全くもって嘘偽りない〈事実〉じゃ」

「たしかにそうみたいですね。つまり、ダビデが投石紐を使って石を投げた事と、動かなくなったゴリアテの首を、巨人の剣で斬ったという話が〈事実〉なんだ」

「その通りじゃ」

「でも、『旧約』には、ダビデが放った石がゴリアテの額に直撃して昏倒したと書かれていますよ」

「汝が見ておる、人の世に伝わっている『旧約聖書』とかいう書物には、たしかに、そのように記されておるのう」

 そう言いながら、魔神アイムも、横からタブレットの画面をのぞき込んだのであった。


「ふむ。ところで、汝は気にならぬのか。その書には、わざわざ、こうも書かれておるぞ。『手に杖をとり』、『五つの光滑なる石を拾ひて』と」

「たしかに、そうですね」

「ワレが目撃したのも、まさにそうであったので、ここに書かれておるのは、まさしく〈事実〉じゃ」

「杖は握っていて、拾った石も確かに〈五〉個だったのですね」


「じゃが、汝よ、改めて考えてみよ。その書の中の場面では一石しか投じておらぬような書き方をしておるのに、何故に、わざわざ拾った石の数を〈五〉と書き記しておるのじゃろうな。それに、〈投石索〉と共に手にしていた〈杖〉はどこにいってしまったのじゃろう?」

「つまり、描写されていない、残り四つの石と一本の杖こそが、この闘いの要だったんだ……。

 あっ! もしかしたら、五つの石と一本の杖、その六つで描き出した〈六芒星〉の〈結界〉で巨人の動きを封じた事から目を逸らさせたかったからこそ、たった一石でゴリアテの額に石を命中させ、首を斬り落としたかのような印象的な描き方が為されているんだっ!」

 灯は合点がいったように何度も首肯していた。

 そしてさらに、灯の思考は続き、それが声となって口から漏れ出ていた。


「つまり、石を額に当てて、ゴリアテを昏倒させたって箇所が〈作り話〉で、〈事実・虚構・事実〉って具合に、二つの事実で作り話がサンドウィッチになっているんだ。でも、なんで、わざわざ、そんな面倒なことを……」

 その独話に魔神が応じた。

「汝自身言っておったろう。六芒星の〈結界〉術を使ってゴリアテの動きを止めた〈事実〉を隠す為じゃ。

 そもそもの話、封印術みたいな秘術を公にできるはずはなかろう」

「なるほど」

「つまりな、何か隠したい事柄がある場合、全てを作り話にしてしまうのではなく、事実を少しだけずらして語ると、そこに本当っぽさが生じるのじゃ。

 なるほど、それは〈真実〉ではないかもしれぬが、事実を語っているが故に、そこには〈真実らしさ〉が生じる分けなのじゃ」

「そういうものなのですね」


「ぶっ!」

 灯が、突然、噴き出した。

「汝よ、また、いきなりどうしたのじゃ?」

「冷静に考えてみると、自分が〈結界〉に使った六芒星を、自ら〈ダビデの星〉と名付けるなんて、なんていうか……」

「『なんていうか』?」

「少年ダビデって〈厨二〉だったんだなって」

「汝、『ちゅう~に』とは何ぞ?」

「十四歳の事ですよ」

「ふむ、たしか、ゴリアテを討ち取った時、ダビデはその位の年齢だったはずじゃが」

「文字通りの〈チューニ〉だったんかよっ!」

 灯は、ここにはいない、古のイスラエルの英霊に思わずつっこみを入れてしまったのであった。


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