シンデレラを助けなきゃ!

 わたしとミヤは、周囲の人たちをかきわけると、大広間の真ん中に躍りでる。

 そして、シンデレラと王子さまのもとにたどり着いた。


 でも、どうやってシンデレラを助けるの?

 ミヤには、秘策があるのだろうか?

 なんて思ったとたんに、ミヤが王子さまの腕に、するっと腕を絡めにいった。


「王子さま! わたしとも踊ってくださらない?」


 驚いて、目を見開いたわたしへ向かって、ミヤが合図を送ってくる。

 これって、もしかしたら、わたしにも同じようにしろってこと?

 でも、シンデレラを助けるためよ。

 恥ずかしがっちゃダメだよね!


「お、王子さま、わたしとも踊ってください」


 そう言って、わたしは、王子さまの反対の腕にしがみついた。

 そして、わたしとミヤは、シンデレラの両手から王子の両手を引きはがすことに成功!

 呆気にとられた表情のシンデレラに、わたしは素早く耳打ちした。


「急ぐんでしょう? いまのうちに! 早く!」


 わたしの言葉に、シンデレラは助け船だと気づいたらしい。

 すぐに、身をひるがえして大広間の出口へ向かって走りだした。


「きみたち、放してくれ! 彼女が行ってしまう! あれ? きみたちは同じ顔?」


 王子さまがわたしたちに翻弄されるように、大広間の真ん中でくるくると回る。


「そうよ、王子さま。わたしと踊って!」


 王子さまの興味がミヤに移った、そのとき。

 わたしの瞳に、映ったのは……。

 お城から出ていくシンデレラの後ろ姿と、その彼女に近づいていく、黒いフードをかぶった人物の姿だった。


「イツキ……」


 わたしは、イツキに追いかけてもらおうと、声をあげかけた。

 でも、ダメだ。

 イツキは、走って追いかけてくれるタイプじゃない。

 ミヤも、いまは王子さまの腕にしがみついて交戦中だ。

 これは、気づいたわたしが追いかけたほうが早いかも!


 決心したわたしは、王子さまの引きとめ役をミヤに任せて駆けだした。


 ドレスって、走りにくい!

 でも、すぐに気づいて、シンデレラがしていたようにすそを両手で持ちあげる。


 大広間の出口までたどり着くと、お城の開いた門が見える。

 その先は階段だ。

 その上に、シンデレラと黒いフードの人物が立っていた。

 わたしの目の前で、黒いフードの人物がシンデレラの耳もとで、なにかをささやく。

 すると、シンデレラは、驚いたように声をあげた。


「ここの階段は、罠が仕掛けられているの? そう、向こうの階段を使えばいいのね」


 ダメだ!

 本当に、その階段には、王子さまが仕掛けた罠があるはず。

 けれど。

 その罠で、シンデレラは靴を置いていかなきゃ、王子さまに探しにきてもらえない!


 わたしは、ふたりに駆け寄りながら、がんばって大声をだした。


「シンデレラ! その人は『黒い森の魔女』よ! その人の言うことを聞いちゃダメ!」


 わたしの声が聞こえたらしく、シンデレラが、ハッとしたように振り向いた。

 同時に、黒いフードの人物――魔女もわたしのほうを見たらしい。

 らしいっていうのは、頭が動いたけれど、フードの中は暗くて、顔が見えないから。


 魔女に見られたわたしは、恐怖で体がすくんだ。

 そのまま、足が動かなくなる。

 でも、シンデレラのために、ドレスのすそを握りしめながら、ふたりを見つめた。


 すると、シンデレラは、わたしに向かって小さくうなずいたのだ。

 そして、そのまま階段を駆け降りていく。


 ――ああ、そうか。

 さっき、王子さまから助けたから、シンデレラは、黒いフードの魔女ではなく、わたしを信じてくれたんだ。


 でも、ごめんなさい!

 そこには、本当に罠が待っているのよ!

 けれど、その未来には、きっと王子さまが探しにきてくれるから!


 わたしは心の中で手を合わせて、シンデレラに謝った。

 そのとき、背後の大広間から、家来を呼ぶ王子さまの声が聞こえてきた。


「彼女を追いかけろ! 早くしろ! これまでのように、見失うな!」


 その声が聞こえたとたんに、様子を見ていた黒いフードの魔女が、別の階段のほうへ向かって駆けだした。


「あ、待って!」


 魔女を怖いと思っていたのに。

 同時にわたしは、ここで逃がしたら大変だとも考えてしまう。

 逃げる『黒い森の魔女』のあとを見失わないようにと、わたしは走って追いかけた。


 ミヤやイツキと合流したほうがいいとわかっていたけれど、そのあいだに逃げられたらと思ったら……。

 夢中でわたしは、ひとりだけで森の中を駆けていた。


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