ガキ大将に物申す

 小学生の朝は、集団登校だ。

 近くのマンションが持っている小さな広場に、同じ丁目の小学生が集まって、六年生の班長の後ろに並んで登校する。

 そして登校したあと、五年生の教室へ入ると、早智が先に来ていた。


「おはよう! 早智」

「日咲、おはよう――あら?」


 目ざとい早智は、シュシュの色に気づいたようだ。


「日咲、そんな色のシュシュも持っていたんだ」

「うん。ちょっとだけイメチェン」


 照れながら、わたしは、早智の隣の席へランドセルを置くと、さっそく教科書を取りだした。

 そのまま、机の中へ移動させる。

 軽くなったランドセルは、教室の一番後ろにある、自分の名前が貼っている棚へ持っていった。

 そして、自分の席へ戻ろうとしたとき。

 流星が後ろの出入り口から、勢いよく教室へ駆けこんできた。

 目の前に立っていたわたしへ、パッと鋭い視線を向ける。


 彼の通り道に、立っていたのが邪魔だったのだろうか。

 流星はそのまま突っこんでくると、わたしのふたつに結んでいる髪の毛の片方をひっぱった。

 引っ張られたはずみでバランスを崩して、よろめくように道をあげながら、わたしは髪を押さえる。

 すると、ばんっと机を両手で叩きながら、早智が立ちあがって文句を言った。


「ちょっと! 流星、乱暴はやめてよね!」

「目の前に、ボーっと突っ立ってるからだろうが」


 その場に立ち止まり、すぐに早智へ言い返した流星だったが。

 ふいに、あれ? という表情になって、流星はわたしを二度見した。


「――おまえ、髪。いつもと違う色じゃね?」

「あら? 男子がシュシュの色に気がつくんだ……」


 意外そうに、早智がつぶやく。

 でも、わたしはこの話題のタイミングを逃しちゃいけないと思って、急いで口を開いた。


「いつも流星って、わたしの髪を引っ張るでしょ。わたしだって、髪の毛を引っ張られると痛いのよ。今度からやめてほしいんだけれど……」


 言った!

 ついに言った!

 流星、反抗したわたしを、睨みつけるだろうか?

 今度から、さらにいじわるがひどくなったりしないだろうか。


 すると、流星は怒りだすこともなく、わたしを見返した。


「ああ、わりいわりい。つい、目の前の高さに、つかみやすいものがあるからさ。悪気はないんだって」


 あっさりと要求を受けいれられたと感じたわたしは、その呆気なさに、ホッと胸をなでおろす。

 そして、気がゆるんだせいか、普段の流星のガキ大将っぷりが脳裏に浮かび、いつも心の中で思っていたことが、うっかりわたしの口からこぼれた。


「流星っていじめっ子の素質があるよね。いじめるのも才能よね……」

「あ? なに言ってんだ? おまえ」


 しまった! よけいなことを言っちゃった!

 目つきが鋭くなった流星の視線から逃れるように、そおっとわたしは顔をそむける。

 そんなわたしに向かって、呆れたような顔で早智がつぶやいた。


「日咲。たぶんそれ、ほめ言葉じゃないと思うなあ」


 調子に乗って、口が動いちゃった!

 これは、言いたいことがはっきり言えるミヤの、シュシュの効果かもしれない。

 イヤだったことも、どうにか言えたし。

 今度ミヤに会ったら、交換したシュシュは元通りに戻そう!

 積極的な行動派であるミヤの青いシュシュよりも、一歩後ろで待機している赤いシュシュのほうが、きっとわたしらしいわ。


 頭を抱えながら、わたしは心に誓った。


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