前章 ニコラス・アヴェノール編
散らばる色とりどりの光沢物。
それはもはや美しい浜辺であろう。
海は紙やプラスチック袋、漂流物が散乱する色とりどりの海と浜辺だ。
ニコラスはこの浜辺を裸足で歩き、ある場所へと向かっていた。
周りには私達と同じ褐色系の黒人がいる。
そこで彼らは金属というゴミを集めている。
脳みその働きなど有効的に活用せず、ただひたすらに自動掃除機の様にゴミという餌を喰らっていた。
ニコラスもまた、その生き方をする奴等と同類であり、外れた人間だった。
少し海辺に近づき、乾いている段ボールを持った。
歩いた先にあった所は、ポリ波板と縞鋼板でできたボロくて増築した様な違法建築。
そしてやけにでかく、一つの町工場の様だった。
中に入ると養殖場の様な水槽があたり一面田んぼの様に配置されている。
その先にあるカウンター擬きの場所に太った黒人女性がデスク作業をしている。
近寄った。
「はい。2時10分開始ね」
その女性は相手の顔も見ずに、普段通りの素っ気ない素振りで勤怠を切って、札を渡された。
ここは古紙リサイクルセンター。
国の最南端にある最底辺層の区域だ。
低賃金で働かせて、低予算で衣食住が全て賄える。
ある意味普通にいい場所だと感じる奴がいるが、それは馬鹿だと気づいた。
これは20X0年代に発案された「民主主義一部改定案」の中の「特別行政区」の「二百年計画」案からだった。
この年代、民主主義の思想に嫌気が刺した人々がピークに達していた。
国はその問題は深刻とは考えず、寧ろ好機だと考え、その様な思想を持つ人達を隔離する様な場所を作り、政治に支障を与えない様とした。
ただ隔離するのではなく、そこにも不安を持たさない様に、最低限度の資金ではなく、もはや裕福にも近い資金でその隔離所を援助した。
それは二百年計画の思惑である「地域知能指数低下」を目的とした、人類自然改造計画であった。
「低脳の家系で産まれる子は、低脳の親の思想と教えの下、低脳になる」
これを何百年も前の大統領が秘密裏に提唱した。
この提唱は今となって成功となった。
だから、偏った政治思想や性や食に関する生命の本質として侮辱している様な思想犯達は、一般的な街からはほとんど姿を消した。
そして民主主義で生まれた思想犯達は国が作った楽園(隔離所)に向かって大移動をした。
それで有名になったのが、この海辺の谷から降りている大道路「楽園を求めるロレンス通り」だ。
今となっては汚名となってしまっているが、その道路には感謝している。
僕が暮らしている家の坂だからだ。
それより僕は産み親の為に、仕事に集中しないといけない。
仕事場である通称「穴」に行った。
続々と大きい通気口の様な所から出てくる色んな古紙。
書類 ヌード誌 雑誌 漫画 文学書 新聞紙...
歳の離れた同じ職場の人達は、この書物が禁断の果実であることなど知らずに、毎日水に溶かして黒い液を抽出し、味のない果肉だけを取り出して乾かす。
ドライフルーツであるのにまるで何も凝縮していない状態を生産する過程の現場である。
だが、ニコラスはその禁断の果実を水に溶かさずに箱に敷き詰めている。
それは隠し隠しでやっているわけではなくただ堂々と先程のダンボールに入れていた。
同僚は入れている所を見ているが直ぐに作業に戻る。
あんまり気にしないのだ。
ニコラスは自分に合った物だけを見つけては入れて、そしてちゃんと仕事もした。
…
ニコラスは段ボールを担ぎながら、受付の女性に近づき段ボールを地面に置いた。
「ん?はい、ちょうだい」
「はい」
上目遣いで女性に札を渡した。
勤怠を切って段ボールをもう一度持ち、出口に向かった。
出口を靴で蹴ると、薄っぺらい鉄の響きが聞こえ、外に出た。
そろそろ夕日に変わる頃になってきた。
海の浜辺の景色は、美しく汚らしかった。
ロレンス通りの坂まではこの職場から意外と近くにある。
砂とアスファルトでグラデーションの様な境目が見えてくる。
この坂は18°ある急斜面である。
昔はここにケーブルカーが通っていたが、二百年計画が終わった後は全て撤廃されて、汚名の坂となった。
ニコラスはその急斜面を、重い段ボールを持ちながら登り始めた。
足を曲げて前を出す際、ズボンに足の形が見える。
ここから16番ストリートまで約75m間隔でストーリート間の幅が空かれている。
僕はそこの9番ストリート街に住んでいる。
そこまで歩くにはとてもじゃないが無謀だ。
だから、裏ルートを使う。
まず2番ストリート街へと行く。
そして、5-11町目という坂の中にある洞穴式の陽光が通らない住宅街に入り、2050年式の油圧式エレベーターに乗る。
そこから3分くらいかけて9番ストリート街に出る。
この手順をする為頑張って坂を登る。
すると聞き慣れない音が、細やかでエネルギーのある音が遠くから聞こえる。
しかもそれはロレンス通りの最上からだ。
音的に考えて速度がものすごく速い様に聞こえる。
先にある平行線を見ていると車が、下り坂をジャンプし宙に浮いた。
その後に、すぐ地上に車体をぶつけ、5番ストリートの角を曲がった。
何が起きているのかわからない中、後から黒ずくめのスカイバイクが3台程追いかけている様だった。
遠目から見ているからなのか、状況が理解できなかった。
別に終わった事だ。
直ぐに歩き始め、また坂を登った。
…
「はあ...はあ...」
登り終わった後はいつも過呼吸になる。
でも脚の力はそこまで疲れていない。
やっと角に曲がれて、平面の道に行けた。
“バギィン”
遠い方にある坂の曲がり角から、雷が轟く様で
小さい銃声が聞こえた。
流石のこの場所でも殺人や事件は起きない。
汚名はついたものの事件確率の低さはトップ。
少し怖さがあるが、僕はこの帰り道でしか帰れないので、恐る恐る歩き始めた。
別にいつも静寂な街だが、あの一見があっただけで、この緊張感は坂を登っている様だった。
でも歩いていても、別に異常なんて無かった。
坂の中にある洞穴式の住宅街に入った。
今日はまだ内部の電気が回っていないらしい。
まだ日の光が外から漏れている。
暗闇の中を歩く。
段々視界が暗くなり見えなくなる。
だが同時にその暗さに目が慣れてくる。
歩き進み、周りをキョロキョロと見渡す。
すると奥の方にある家の角から光が見える。
だがその光は天の川にある小さな星の様に散らばっていた。
近づいてみる事にした。
それは橙色と水色に点滅している砂のようなものだった。
空(天井)から水銀ランプの光が光る。
街灯の様に暗めの光が入り口ら辺から列順に光が迫ってくる。
その速度はすぐにこちらの住宅街の列まで来た。
その光で地面の光は無くなった。
その代わりにアスファルトに濁った黒めの液体が見えた。
先程の塵んl光の左側を見ると、そこには壁にもたれて血を流している人が居た。
ニコラスは動揺した。
その残酷な姿を見るのにはまだその年齢に適していないと脳が叫んでいる。
精神は感情を分割させ、一歩引き下がる自分と、話しかけている自分が、現実から薄れている残像を脳裏で揺らめいている。
「誰だ...」
半目で僕を上目遣いで見てくる、高齢でがたい良い爺さんが居た。
爺さんが羽織っている白衣からは際だった黒目の血が滲んでいる。
顔にも、美しく白い眉毛や髭に泥を塗るかのように血が流れている。
その血が一滴として一本の毛の先端に流れ、葉から落ちる雫のように地面へと落ちた。
「そこの粉をくれ...」
爺さんの手が震えながら指を刺した。
その指を刺した先は意外と近くにある、あの光っていた砂のようなものたちだった。
ニコラスはその粉を掬って爺さんの手に乗せた。
「もっとだ...」
ニコラスは言われた通りに、残っている砂をできるだけ多く手で掬い、爺さんの手に乗せた。
爺さんはその粉を握りしめた。
目を瞑り沈黙が起きる。
すると、握っている手から緑白色のネオンのプラズマが体全体に広がった。
そして、そのプラズマは無くなり、爺さんの体から煙が出ていた。
粉を握っていた手を開き地面に落とした。
その粉は、先程の光に似た色が黒と白へと変わっていく。
爺さんは何事も無かったように立ち上がり、横にあった手持ち鞄を持った。
「三番ストリート街はどこだ」
その質問に咄嗟に指を刺した。
脳内はバグっていた。
爺さんが進んだ先には本を詰めた段ボールが置きっぱなしだった。
その段ボールを見て僕の方を振り返った。
「坊や。この本、理解できるのか?」
「は...い...前分野の『トランスエネルギーの無限倍増と非対称』を...だから、これ、見たくて」
「...」
爺さんはこちらを睨んでいた。
怖い。
殺気というよりかは気持ちがられている様だった。
爺さんは一旦横目をしてまたこちらを見た。
「坊や一緒に来ないか」
「?」
「決めるのは勝手だ」
爺さんはまっすぐ歩き始めた。
「で...」
正面を向いたまま何かを言いかけた。
「どうする」
僕は即答した。
「ここから出る」
爺さんはニヤけて「じゃあついてくるんだな」と言った。
...
マッハバンド 苅安 鴇 @KINAGAIsub
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。マッハバンドの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます