第29話 鎧騎士は木のダンジョンを周回する(1)
「わぁ~! すっごい! どうなってるんだろう?」
「……このダンジョン知ってる。わざわざ外の水を引いているのよ」
私たちの目の前には、見渡す限りの浅い水面が広がっている。
水面には一定の間隔で足場が存在しており、コレを飛び移って移動するみたいだ。
周囲を見渡してテンションが上がっているアリシアの疑問に答えたのは、テンション低めのシーラだった。彼女はサボっていた罰として、ミラによる講義を毎晩受けているらしい。
なんとダンジョン調整後の真夜中に……だ。
昼もダンジョン周回で忙しいというのに、ご苦労なことである。
――もしかしたら、ミラがとても苦いと言ってた活力剤をガブ飲みしているのだろうか?
ハードな毎日を送っている割に、前よりもシーラの足取りはしっかりしている。
士気はともかくとして、肉体的には特に問題無さそうだ。
それほど支配の魔法に抵抗するのは大変だったということなのだろう。
私たちは用意された足場を使い、先へ先へと進んでいく。
「へぇ~。木のダンジョンって聞いていたのに、水のダンジョンだったんだ?」
「あー……。敵の種類でダンジョンの呼び名は決められてるらしいわ。ここの魔物は木で作られた魚だから木のダンジョンなんだって。水中に潜れないから見つけるのもカーンタン。ほらアレよアレ。浮いたままヒレを動かしちゃって本当にマヌケ」
講義の成果なのかシーラは早速、今潜っているダンジョンの情報を教えてくれる。
彼女が指す先の水面には、木彫りの魚っぽいモノがプカプカと浮いていた。
同時に気が付いたらしい木魚は、水面から全部出てしまっているヒレを必死に動かして、何とかこちらを向いた。
――あんな調子で何をしようというのだろうか?
そんなことを思いながら木魚を見ていると、大きく開かれた口から何かを私目がけて勢いよく飛ばしてくる。
――何事だ!?
とっさに最近買った盾で飛んできたモノを防御すると、カツンと軽い音がなった。勢いの割に威力は無いらしい。
はじかれて水面に沈んだ物体はすぐに浮き上がってきた。
浮き上がってきた物体を拾ってみると、その表面はツルツルとしており、編み目のような模様が刻まれている。
……この模様は机や椅子でよく見た覚えがあるぞ。
飛んできた物体の正体は木の玉だった。
――木魚が飛ばしてきたのは……ただの木の玉だ。
「魔法の一種よ。ウッドボールといったところね。いくらでも飛ばしてくるから、さっさと倒すのがシーラ様のオススメね。痛くないけどウザったいし……」
「あたしやる~!」
真っ先に手を挙げたアリシアが元気に飛び出して、足場を飛び移っていく。
牽制に連打される木の玉を軽々とかわしながら、浮いているだけで身動きの取れない木魚目掛けて、彼女は腰から抜き放ったレイピアを突き出した。
突き出されたレイピアは木魚の口を縫い止めてしまった。木魚は懸命に木の玉を飛ばそうとするが、刺さった刃が邪魔で全く飛距離が出ない。
「燃えろ〜!」
アリシアの言葉と共に突き刺さったレイピアの刃は轟々と燃え上がり、水上に浮かんでいる木魚を炎上させた。ちょっと不慣れな使い手は刃の炎が自分に燃え移らないかと、少し腰が引けている。
これは火のダンジョンで手に入れたレイピアの力である。
この新しいレイピア。彼女が背中に背負ったままのロングレイピアとは違い常識的な刃渡りしかない普通のレイピアなのだが、「燃えろ」と言えば刃が炎を纏う【炎剣】という魔法がかかっているのだ。
しばらく藻掻きながら燃えていた木魚だったが、口から焦げた木の玉を落とすと光と共に消えていく。後には木の器に乗った魔石や木魚の撃ちだした大量の木の玉が残された。
木の器や玉は水上をプカプカと流れていく。
「おおっと! 沈まないように器付きで親切なのか、結局流れてしまって不親切なのかよく分かんねぇダンジョンだぜ」
「ホーネット! 助かったわ。でも……う~ん」
さっと先回りしたホーネットが回収してくれたけど、あのまま流れてしまったらどうなってしまうのだろうか。
先ほどシーラは、ここの水は外から引いていると言っていたので……。
――もしかしたら、そのまま外へ流れてしまうのか?
排水場所が分かれば、魔石がちょっとした山みたいになっていそうだ。
同じ事を考えたのか、アリシアは碧眼をらんらんと輝かせて流れる木の玉を追いかけはじめた。
「良いこと思いついた! ダンジョンを攻略する前にちょっと付き合って!」
「いやアリシア。俺はちょっと嫌な予感が……。お~い! ……聞こえてないなコレ……」
駆けだしたアリシアの背を緑のジト目で見ながら制止したホーネットは、止まる様子のない彼女を仕方なさそうに追いかける。
「
更にホーネットの後をブツブツと恨み言を言いながら、シーラが追いかける。
彼女の言いようからすると、この状況はミラに予想されていたみたいだ。
しかし……。
――シーラの言うこんなものとは、何だろうか?
――水流の終点には魔石の山が積み上がっているんじゃないのか?
色々と疑問に感じつつ、水に落ちないように気をつけながら一歩目を踏み出す。
最近になって気が付いた事なのだが、カカトより深い水場は私の天敵だ。
――足が水浸しになって気持ち悪いのだ!
こんな時にミラがいると、水上を歩けるようにしてくれて助かるのだが……。
内心で贅沢なことを考えながら、私も皆の後を追いかける。
呪われた名無し鎧騎士、強運少女の祈りで覚醒!? なお、迷宮周回&宝箱開封&強OP厳選します! ランドリ🐦💨 @rangbird
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