第27話 迷宮調整士の交換日記
一日目。
毎日日記を正直に書くように命令されたから、仕方なく、本当に仕方なーく書き記すわ。
この最高の魔法使いシーラ様の内心を探ろうだなんて、いつかバチが当たるに違いない。本当に嫌な命令をしてくる女ね。
今日はぬいぐるみ狂いと噂される聖女セシリアが近くの街に来ると聞いたから、放置されているダンジョンを最高のぬいぐるみに変えて売りつけてやろうしたの。
放置されてるんだから、私が好きにしたって良いじゃない。
だけど卑怯な手を使ったアンタ達に捕まってしまったわ。
騙してあんな魔法を使うなんて、魔法使いの風上にも置けない奴!
正々堂々と戦ったら絶対の絶対に、このシーラ様が勝つんだから!
あの内心はうるさいのに無言の鎧ヤローも、人のことを盾にしてくれちゃって許せない。もうちょっとで真っ二つになる所だったし!
なーにが流石は調整士よ!
とっさに全部はじき返してみせたシーラ様の凄さこそ褒め称えなさいっての!
魔法が解けたら、二人ともボコボコのケチョンケチョンにしてやるわ。
一日目の返信。
最高の魔法使いシーラ様におきましては、中央都市の手法やダンジョン関連の法に明るくないみたいですね。
貴方にかけた支配の魔法は変な魔法ではなく、中央都市へ送られた野良の調整士を素晴らしい労働力に変えてくれる故に、重宝されている魔法です。
効果は凶悪ですが、必要悪という奴かと。
何も知らない市民からすれば、凶悪な犯罪者が一夜にして心を入れ替えて世のため人のために働き始めるように見えるので、祝福を与える聖女と共に中央都市の求心力を高めるのに一役買っています。
ダンジョン関連の法ですが、ダンジョンは一番近くにある都市の財産に属するので、個人で自由に使うのは違法です。
都市に属する調整士なら多少の自由は許されますが、多少は多少です。決して全部ではありません。
好き勝手ダンジョンを荒らしているように見える冒険者も、買取額から税金は引かれていますからね。
貴方も魔法使いを名乗るならば、ダンジョン関連の法や戦闘用以外の魔法について、この機会に勉強し直しては如何でしょうか。
書籍はお貸ししますよ?
最高の魔法使いシーラ様を捕まえたミラより。
二日目!
なんで深夜に日記を開くように命令してきたのかと思ったら、アンタの返信が遠隔で書き込まれる仕組みって訳?
難しい話で、このシーラ様を挑発しようだなんて良い度胸じゃない!
勉強なんかしている暇は無いわ!
やることがあるの!
ふふん。明日はアンタのお友達と、ダンジョンへ行くから!
通りすがりの華麗なる魔法使いとしてね!
お友達と一緒にダンジョンへ行けないなんて、調整士って本当に不自由。
そこで指をくわえて悔しがると良いわ!
なんでお友達を見つけられたかって?
鎧ヤローと一緒に居たからピンときたの。直接守れないからって、あんなに目立つ奴と一緒に居たらアンタの関係者だとバレバレ。
鎧ヤローの困っている様子なんて、傑作だったんだから!
アンタにも見せてやりたかったわ。
冴え渡る私の勘をなめないでよね。
でも毎日、銀貨五十枚を街で使えってのは、自由の対価として横暴だと思うわ。
宿に荷物を置きすぎる訳にもいかないから食べ物に使っているけれど、魔力を使えば大丈夫とはいえ銀貨五十枚分の甘味は流石に多かったみたいで、少し、ほんの少しだけ太った気がするの。
……もう少し、金額を少なくできない?
二日目の返信。
金額を少なくするのはダメです。
体型については問題ありません。
割と余裕みたいですし、予定を前倒しにして明日から調整に同行して貰います。
ダンジョンの調整には大量に魔力を使いますから、お腹も自然にへっこんでいくでしょう。
しかし昼にも魔力を使う仕事を選ぶとは、思いませんでした。
野良として各地を放浪していたから知らないのでしょうが、一カ所に留まる優秀な魔法使いも調整士扱いされて命を狙われるので、魔力を使う仕事は制限がとても多いです。
私は泣く泣く諦めました……。
アリシアを巻き込まれると困りますから、注意点を伝えておきます。
例えダンジョン内でも、使う魔法については気をつけておいた方が良いです。
例としてあげれば、単純な直射系の魔法でも完全に詠唱後に発動してください。
無詠唱はおろか短縮もダメで、当然ながら敵の魔法制御を奪うのも無し。
その位が普通の魔法使いらしいです。
悔しくてペン先が震えないように努力しているミラより。
三日目。
流石のシーラ様でも、今日は本当に疲れたわ!
いちいち詠唱するのも大変だし、これなら直接殴った方が早いくらい。
オマケに何度も何度もダンジョンに行くんだもの。
冒険者の仕事って、こんなに大変なの?
連中って意外と根性のある奴らなのね。タダのロクデナシだと思ってたわ。
ギルド周辺で飲んだり騒いだりしてうるさい奴ばっかりだし、良く路上で寝てるし……。
それともこの街の冒険者が特別なの?
三日目の返信。
この街でも、基本的に冒険者は厄介な酔っ払いだと思って良いです。魔力酔い止めの薬が普及されているのに、あえて使わない人が多すぎます。受付業務をするとき、相手をするのが大変です。
何度もダンジョンへ潜るのは優秀な冒険者だけですね。
そう、私の友人が特別なのです。
近接戦が上手すぎるのも疑われますので、一生懸命に詠唱してください。
疲れているところ申し訳ありませんが、命令です。
予定通り今夜は調整を手伝って貰います。
活力剤とお夜食も用意してありますので、もし魔力が心許なかったり、疲れて眠かったりしても大丈夫です。
昨日のことを根に持っているミラより。
あ、アンタこうなることが分かって……ま、魔物だわ!
アンタは魔物よ!
魔物扱いとはヒドイです。
ダンジョン二つ分の罪。しっかりと償いながら反省してくださいね。
・・・
・・
・
十日目。
今日もダンジョンを周回した。疲れた。
十日目の返信。
お疲れ様です。
シーラさんもすっかり素直になって、私は嬉しいです。
そういえば、目のクマが少し目立っていましたよ?
調整士としては、夜間活動の痕跡をしっかりと隠さないとダメです。
今度、上手に隠す方法を教えてあげますね。
貴方の今後の活躍に期待しているミラより。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます