第22話 鎧騎士は野良調整士と戦う
ダンジョンの入り口である魔法陣の前にて。
紫髪の少女がブツブツと文句を言いながら、杖を振るっている。
――あの子が野良の迷宮調整士だろうか?
「その通りです。不意打ちして調整を失敗されると困るので、声をかけます。騎士さん、降参してこなかったときのために戦闘の用意をお願いしますね」
――わかった。
紫髪少女にミラが近づいていく。
彼女の横には武装した巨大な魚人が控えている。戦力差は明らかだが、迷宮調整士のデタラメ具合を思えば注意しておくに越したことはないだろう。
私も魚人の反対側の位置につき、すぐに前に出られるようにしておく。
「こんばんは。こんな時間にダンジョン前で何をしているのですか?」
「高位の術士と護衛騎士! 私を捕まえに来たって訳?」
声が届く程度の位置からミラが声をかけると、すぐに状況を理解したらしい少女は盾にするように杖をこちらに突き出しながら、後ずさりする。
「状況が分かっているみたいですね。降参してください」
「ふざっけるんじゃないわ! 捕まってたまるもんですか!」
降参を促された少女がダンジョン入り口の魔法陣に杖を向ける。
彼女がやけっぱち気味に杖を振れば、魔法陣は消え去り。代わりに巨大な二足歩行の獅子が立っていた。
こちらに対して二足歩行の獅子は地響きのような咆哮をあげた。
獅子は頑丈そうな金属の胴丸を身に纏い。物を器用に掴めるらしい前足に、巨大な大剣を持ち武装している。
ミラの連れている魚人と同じような奴だ。気を引き締めていこう。
「残念です。騎士さん、魚人と一緒に獅子を抑えてください。調整士は私が制圧します」
――任せてくれ!
ミラの指示に胸を叩くことで了承の意を示した私は、先行する魚人の後を追う。
魚人は獅子めがけて一直線だ。
三つ叉矛を前に突き出して走る巨体は、道中の小さな木を蹴散らしながら進んでいく。こんな奴の相手を真面目にするのは、私でも苦労しそうだ。
強烈な突撃に動じない獅子は静かに両手を頭部に持ってくると、大剣を握りしめたまま両拳で頭を押さえる構えを見せた。
見覚えのある動作に私は戦慄した。
もしもアレが私の知っている動作であれば……。
――やられた!
「騎士さん、どうしましたか? なっ!」
魚人の突撃は獅子の周囲に展開された球状の膜に止められてしまった。
勢いの止められた魚人は、構えを解いた獅子に大剣でタコ殴りにされ、鎧がヘコみ、砕け、ひび割れていく。
割って入った私が攻撃に夢中な獅子の脇腹を「いい加減にしろ」とぶん殴ってやれば、脇腹が白く燃え上がった獅子は消火しようと地面に転がりだした。
「魔物に浄化は反則でしょうが! 一部を切り離して……ぐええっ」
「戦闘中によそ見は行けませんよ。スキ有りです」
創造主に胸から下を切り離された獅子。
彼はどうにもならないので、例の両拳を頭に乗せるポーズで防御を固めている。
このポーズ、着ぐるみの【障壁】という魔法を発動させるポーズと同じなのだ。
アリシア達が試していたのだが、 両拳を頭部に当てるという無防備な動作で発揮される防御の魔法である。まさか巨大な魚人の突撃を受け止めてしまうとは。
一方、創造主の少女は水の腕で握りしめられ、悲鳴を上げていた。
ミラの魔法だ。あちらの方が先に勝負がついたらしい。
「いだだだだ! もう少し優しく!」
「まさかダンジョンを使い魔にしてしまうとは……。思いませんでしたよ!」
「だって、だって。いだだだだ!」
言い訳しようとした少女は、更に締め上げられて黙らされてしまった。
――普段冷静なミラが我を忘れて怒る使い魔とは、何なのだろうか?
私の疑問の思いに表情を引きつらせたミラが、苦々しい声で答えてくれる。
「使い魔は自分専用に改造した魔物です。この野良調整士、ダンジョンを使い魔にしてしまいました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます