鎧騎士は夜を駆ける

第19話 鎧騎士はパーティを結成する

 宿の大きな部屋で私たちは休息している。部屋には四つほどのベットと大きなテーブルに暖炉があり、白いパジャマを着たアリシアは暖炉前でひん曲がった剣を布で磨き、シャツにハーフパンツ姿のホーネットはテーブルに薬剤の瓶を並べて何やら手帳に書き込んでいる。


 私は窓際で木製の椅子に座り、窓から見える夜の景色を満喫中だ。見えるのは光り輝く湖で、夜間なのに明るいからだろうか昨日見たときと同じく船が行き交っている。


 ――あの光は魔法だろうか?


 あの光、一度見たことのあるミラの魔法に似ている気がする。あの時は魔物が一気に集まってきて大変だった。光に集まってしまう特性は真っ先に排除したらしいが、迷宮の調整というのは本当に重要だ。


「外なんて見てどうしたの?」


 湖の光を見て調整の重要さを噛みしめていた私に声をかけてきたのは、剣を磨くのに満足したらしいアリシアだ。光る湖と船を指さして疑問を伝えると、彼女は剣を慎重に壁へ立て掛けた後、光る湖について教えてくれる。


「ああ、湖が光っているのは浄化の魔道具が起動しているからよ。毎日見てるから気にしていなかったけど、記憶喪失で初めて見る後輩君には物珍しいかもね。観光に来た人もよく驚いているし。船が行き交っているのは浄化で船を綺麗にして貰う為だって聞いているわ」


「光っている場所の近くは浄化の魔法がかかるから、俺達みたいな見習い冒険者も拾いものや服を綺麗にするのに利用させて貰っているぜ! 湖の浅瀬にも配置されているから、水浴びついでに色々と綺麗に出来るんだ」


 アリシアの話を聞きつけたホーネットも手帳を閉じつつ、豆知識を教えてくれる。

 ダンジョンに入れば汚れが落ちるとはいえ、毎日ダンジョンに行くわけにもいかないだろうから、この情報は重要だ。


 ――今度、場所を教えて貰うべきだろう。


「そうそう、パーティ結成の話、考えてくれた?」


 ホーネットを見ながら今度やるべき事を考えていると、ニコニコとしたアリシアから別件について聞かれる。

 冒険者ギルドで提案された装備の貸し出しは制度として存在しており、パーティを組めば色々とやりやすいらしく結成を提案されていたのだ。


 パーティというのは目的を同じくする冒険者の集団のことで、依頼の遂行からダンジョン探索まで結成する目的は様々だ。


 彼女の提案は目的は定めずに制度を利用するためにパーティを結成しようという一風変わった物だった。


 私としてはホーネットの働きに満足しているので、今後もよろしくお願いしたいと思っている。


 ――倒れそうになったときに支えてくれたしな!


 ホーネットは見習い冒険者のまとめ役であり多忙なので、彼女以外の見習い冒険者を派遣することもあるらしいが、彼女に認められた優秀な子を派遣するとのことで安心だ。


 片手をあげて了承の意を示すと、ホーネットは安心したように息を吐いた。兜で顔が隠れてしまっているので、彼女に私の満足感は伝わっていなかったらしい。オーバーなリアクションをすると悪ふざけに見え、リアクションを抑えると伝わらない。勘と観察力の良いアリシアのありがたみを強く感じる。


 ――リアクションというのは、加減が難しいな!


「じゃあパーティ『アリシアと愉快な仲間達』の結成ね! 拍手!」


「もうちっと何とかならなかったのかよ。アリシア」


「良いの良いの! 公式な場で呼ばれる訳でもないんだから、パーティ名は適当に付けとけば良いのよ!」


「そうかねぇ。どう思う? 後輩殿」


 緑の目をジト目にしたホーネットの微妙な気持ちも理解できるが、私たちのことを端的に表しているので十分な気がする。


 ――しかし公式な場で呼ばれるという言葉に胸騒ぎがするのは気のせいだろうか?


 胸騒ぎを覚えつつ気のせいだろうと肩をすくめてみせると、その様子を中立と解釈したアリシアが宣言した。


「賛成1反対1中立1だから、あたしのリーダー権限でパーティ名は『アリシアと愉快な仲間達』に決定!」


 いつの間にかパーティのリーダーに収まっていたアリシアは、胸を張ってパーティ名を断言した。私は喋れず、ホーネットは見習いなので三人の中で適役は彼女だけだ。


 横暴な気もするが迅速な判断力があると、好意的に解釈するべきか。


「明日は後輩君に街を案内しながら、浄化の魔道具がある浅瀬を教えるから冒険はお休みにするわ」


「了解だ。アリシア」


 ――毎度のことだが、考えていることを読まれていたみたいで驚いた。


 迅速な判断力だけでなく、観察力も優れたアリシアにリーダーは適役かもしれない。彼女の冒険予定についての通告に、先ほどまでの緩い調子を引きずらないで、しっかりと返答したホーネットにも好感が持てる。


 ――今更のことだが、このパーティメンバーはかなり優秀だな。


 パーティで過ごす夜は、明日の案内についての話で更けていった。


 #####


 二人がぐっすりと寝た後の部屋にノック音が響く。


 ミラから聞いていたノックのリズムにドアを開けると、迷宮調整士としての服装に身を包んだ彼女から夜の散歩に誘われる。


迷宮騎士ギルドナイトさん。お仕事の時間です」

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