第18話 鎧騎士はシルバーランクになる

 私たちはノールの街がある湖まで無事帰ってきた。


 しかし予想外の事態が起きて少々混乱している。


 大きな船から光で形作られた螺旋状の階段を下り、白いワンピースを着た白髪灰目の少女が私たちの小舟へ乗り込んできたのだ。


 兜で顔が隠れている私も含め、アリシアもホーネットもあんぐりと口を開け、その様子を見守っていた。


 私たちの小舟へピョンと飛び降りた白の少女は着ぐるみ姿のアリシアやホーネットに頬ずりすると、嬉しそうな表情で山積みされている着ぐるみを見回した。


「とても素敵ですね! もし良ければ、お一つ売ってください!」


 甘やかな声に魅了された私たちは、何度も頷くことしか出来ない。


 それを了承と受け取った白の少女は、鼻歌交じりに着ぐるみを一つ引き抜くと、とろけるような笑みでチャリチャリと音のする小袋をアリシアに手渡した。


「ありがとう! お釣りは大丈夫です。そこの鎧の人は大変そうですね……。勝手にお祈りするのは禁じられているので~……祝福をかけちゃいます! 『その手が血に濡れたは誰が為、その手は必ず栄光を掴む!』よしっ! コレで大丈夫です!」


 何故か私に同情の視線を向けた白の少女は灰色の目を細めてニコニコすると、祝詞らしき言葉を送ってくれた。満足したように頷いた彼女は着ぐるみを抱きしめながら光の階段をゆっくりと登り、大きな船へ帰って行った。


 私たちは空へ登り行く少女を呆然と見送る事しか出来ない。


 少女が通り過ぎた後、光の階段はゆっくりと消えていった。


 ハッとしたアリシアが小袋の口を開けると、金色の光が漏れ出す。


「金貨が五枚も入ってる!」


「マジかよ! さっきの子、凄いお金持ちじゃねぇか!」


 金貨を五枚といえば、初日に周回して稼いだ金額を超えている。ホーネットの言うとおり、それほどの金額をポンと渡してきた白の少女はずいぶんとお金持ちみたいだ。


 ――祝福か。


 私について何か気が付いたらしい彼女の言葉は気になるが、今は冒険の成功と無事を喜んでおこう。


 #####


 私たちの乗る船はアリシアの華麗な操舵で、小さな桟橋の集合体であるギルドボートの船着き場に到着した。船着き場は帰ってきた冒険者達と、船いっぱいに積まれた成果で溢れかえっている。


 話に聞いた収納の魔法も、どうやら万能ではないらしい。


 他の船の甲板を磨いていたロイドが目をパチクリとさせながら、こちらの船に積まれた着ぐるみ達を物珍しげに覗いてくる。


「ずいぶんとまぁ……。満員のお客様を連れて帰ってきたみたいですね」


「大漁よ! 船の鍵を返すわ!」


 ちょうど良いと思ったらしいアリシアが停船した船の鍵を引き抜いて投げ渡すと、受け取った彼は何やらメモをしつつ、その行動の危険性をチクリと指摘してくれる。


「おっと! 危ないので鍵を投げるのはやめてください。私が受け損じて鍵を紛失しても、外で船を紛失したのと同じく金貨二枚の罰金ですからね。少女と鎧の二人組と補助役一人無事帰還と……」


「は~い! ごめんなさ~い!」


 指摘に対して元気に返事をしたアリシアはレイピアの鞘と着ぐるみ二つをひっつかむと、船から小さな桟橋へ飛び移った。装備についた魔法効果【剛力】のおかげか、その動きは荷物を沢山持っているようには見えないほど軽快だが……。


 ――酔い止めは飲んだはずなのに元気が良すぎる!?


「ふぅ、冒険者が元気なのは結構な事です」


「船守殿、アリシアがすんません……」


「良くあることなので構いません。一度失敗してから大人しくなるものです」


 申し訳なさそうにしているホーネットに返されたロイドの言葉からは、実感がにじみ出ている。

 ……どうやら罰金を払うのは時間の問題らしい。資金には余裕を持っておこう。


 それよりも大収穫にテンションの上がっている着ぐるみ姿のアリシアを一人で行かせるのは心配だ。

 私は頬を掻いているロイドに頭を下げると、二つの着ぐるみを掴んで桟橋に飛び移り彼女の後を追う。彼女はもう上側の桟橋への階段を登り始めており、凄い勢いだ。


「あはは! 軽い軽い!」


「アリシア~! 人にぶつかんなよ!」


 ホーネットも着ぐるみを背負って後を追ってくるので、私たちは謎の着ぐるみ集団みたいになっている。道行く人から微笑ましそうに見られているので、冒険者というのは、こういうモノなのかもしれない。


 夕焼けに赤く照らされた桟橋を駆け抜け、朝よりも綺麗になっている道を通り過ぎ、私たちと同じく荷物を沢山持っている集団と合流しながら冒険者ギルドへやってきた。


「こちらです。混雑しているので奥の部屋を使いましょう」


「悪いわね!」


 ギルド内の受付カウンターは戦利品を売る冒険者で混雑していたが、どや顔のアリシアと一緒に出迎えてくれたミラの後をついていくと奥に通される。背中に冒険者達からの視線が突き刺さった。


 ――割り込むようで悪い気がするな。


「有望な冒険者を贔屓するのは良くあることなので、羨まれているのです。胸を張ってください」


 通された場所は小さな部屋になっており、部屋にあるのは頑強そうなテーブルが一つとそれを挟み込むように置かれたソファ二つだけだ。つい思ってしまったことに対して返事をされたので、部屋自体が受付カウンターと同じ力を持っているらしい。


「聞いてよミラ! 良い装備品がこんなに手に入ったの! 良いことを教えてくれてありがとね! あっ、コレは返すわ」


「確かに受け取りました。良い装備品……ですか?」


「うん! この着ぐるみ、常に力が強くなる魔法と防御壁の魔法が発動出来る良い装備なの!」


 ソファに座りながら獣耳帽子を返すアリシアの言葉に、ピカピカ光る板をチラリと見たミラは一瞬ニヤリと笑った。


 ――何か良いことがあったのだろうか?


「んふふ、早くも二人がシルバーランクに昇格したので、つい……。二人ともシルバーランクおめでとうございます。シルバーランクには今回使って貰ったギルドボートが貸し出し可能です。これからも冒険者ギルドをよろしくお願いしますね」


「おっと! 俺達見習い冒険者もよろしく頼むぜ!」


「もっちろんよ!」


 ――もちろんだ!


 即答したアリシアに習いホーネットとミラに対して片手をあげることで肯定の意思を示すと、笑い合う三人と一緒に腰に手を当てて笑うジェスチャーをしてみる。


「ぷぷ! なにそれ!」


「んふふ」


「わはは!」


 顔を見合わせた三人に笑って貰えたので、魔物に乗ってばかりで暇な周回中に暖めていた新たなジェスチャーは大成功だ!


 今回集めた収穫品をホーネットが机の上にひっくり返せば、収穫品に緑色の文字が浮き上がってくる。

 ピカピカ光る机をミラが撫でると、机の縁から文字の書かれた紙が流れ出てきた。紙には大漁だった今回の収穫の売値が書かれている。


 ――――


 力強い獅子着ぐるみ×3

 1G10S×3=3G30S

 障壁の獅子着ぐるみ×2

 1G10S×2=2G20S

 ハイポーション✕32

 15S×32=4G80S

 中級魔石✕38

 5S×38=1G90S


 合計

 12G20S

 ――――


「魔法が金貨一枚の価値なら、あたし達の着ている奴は金貨二枚と銀貨十枚ってことね!」


「マジかよ! 凄い高級品を着ちゃってたんだな!?」


 急いで脱ごうとするホーネットを制止したアリシアは、指を使い計算中の私に提案してくる。三等分にしたときの銀貨の分け方に悩んでいたのだ。


「まあ待ちなさいホーネット。後輩君、私の着ぐるみは買い取ろうと思っているのだけど、この子に貸してみない?」


 ――貸す?


 私が首を傾けることで静聴の姿勢を示すと、アリシアはホーネットのはねている赤毛を撫でつけながら続けた。


「お金にしちゃうより、この子に使って貰った方が沢山の収穫を持って帰れるでしょ? 固定パーティの共有財産みたいな感じね」


 ――パ-ティという言葉も気になるが、確かに彼女に使って貰う方が良いな!


 提案に魅力を感じた私は、片手をあげることで了承の意を示す。酔っ払ったアリシアと一緒にレイピアを纏めた昨日の苦労を思い出したのだ。


 その後は遠慮して等分な分配に反対するホーネットを落ち着かせたり、装備の買い取りで前回と同じく満額払おうとするアリシアをミラ経由で止めたりで分配を済ませると、アリシアの実家が経営する宿のパーティー用の部屋に泊まる事になった。


 ようやく落ち着くことが出来そうで助かる。



 ――あとがき――

 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

 ノールの特色である水運を使った冒険者活動を楽しんでもらえましたでしょうか?

 湖に街が面しているので、水運が活発なノールは冒険者も船に乗って冒険に繰り出します。


 溢れた魔物で川が詰まってしまうのを防ぐのも目的の一つです。


 次回はアリシアの宿で仲間とゆっくりした後、会計時にニヤリとしていたミラが訪ねてきます。

 何やら目的がありそうです。


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