第10話 鎧騎士は攻略する
キノコの緑光が照らす森林内で、次々と現れる水色のオオカミを打ち倒す。
飛んでくる水球に手のひらを合わせると、体が勝手に動き出して円を描くような手の動きをしたと思えば、いくつもの水球を受け止め、水のナイフに変換し、投げ返した。
――行け!
私の気合と共に飛んでいく水のナイフは、魔物に当たれば打ち砕き、木に当たればへし折り、地面に当たれば土砂を巻き上げる。
マジックボルトと比べると、かなり派手だ。
一部の水色オオカミが突っ込んでくるが、食らいつこうと開かれた大口のちょっと上にある鼻面を片手で押すと、体が勝手に動き出して力任せに鼻面を握りしめた。当然相手は暴れるが、勝手に動く私の体は万力のような力で握りしめているらしく、逃れることは出来ない。
もう片手が流れるように暴れる水色オオカミの首に添えられ、青白く光り輝くと、敵はビクンとした後に力を失い消えていく。
……うん、地味だが確実だ。
まさか魔法を使ってくるようなモンスターと戦うことになるとは思わなかったが、魔法をつかめるようになったし、近づかれてもこちらのモノなので楽勝だ。
横目でミラの様子を見ると、私と比べてかなりド派手に戦っている。
「んふふ、まとめて吹き飛ぶのです!」
ミラの操る水の大蛇が、その巨体で周辺の立木ごとモンスターをなぎ払うと、数体の水色オオカミがまとめて潰され、消えていく。
最初は木の幹程度の太さだった水の大蛇は、何故か二倍ほどに巨大化していた。
――本当に護衛が必要なのだろうか?
「迷宮調整士の掟で、ダンジョンの調整に
私の疑問を【マインドスキャン】で読み取ったミラは、魔力酔い止めの薬を苦そうに飲み干しつつ、言葉尻を強調した。あの薬は門兵の所で飲まされたことがあるので、つい声が漏れてしまう気持ちも分かる。
……分かるのは気持ちだけで、私は声が出ないわけだが。
#####
集まってきた魔物を倒し尽くした後、静かになった森で宝物庫を探しつつ、ミラから色々と話を聞いている。彼女の連れている水の馬は大きくなりすぎてしまい、木の枝をかき分けながら進んでいる。大蛇の姿から元に戻したら、大きなデブ馬になっていたのだ。
――あれでは騎乗すると、ひどい事になりそうだ。
「……少し大きくなりすぎましたね」
ミラが腰から引き抜いた短杖を振れば、巨大になっていた馬はみるみるうちに小さくなり、ふっくらしていた見た目も、シュッとした様子に改善された。
普通の見た目になった水馬に頷いた彼女は、表情を真剣に変えて私に尋ねてくる。
「ところで、アリシアはどんな話をしましたか? 記憶の無いあなたに変なことを教えていたら困るので、早めに訂正したいのですが」
アリシアに教えて貰ったことか。
まず最初は……。
――鑑定のレンズで勝手に相手を見るのは、敵対宣言ということだな。
私の返答に目を丸くしたミラは、苦笑しながら懐からアリシアの持っていたのと同じレンズを取り出すと、私に貸してくれる。
「アリシアらしい言い方ですね。私に使ってみてください。彼女の真意を教えておきましょう」
言われるがまま、ミラに向けたレンズをのぞき込むと、私の脳裏に読めないが理解の出来る文字が並んでいく。
――――
[ミラ]
状態:
健康
――――
彼女の表示もアリシアの時と同じくシンプルだ。
「状態の下を見ようとしてください」
言われた通りに下を見ようとした私の目に映ったのは、詳細という文字に続いて身長、体重、B、W、Hという文字と、それに並ぶ数字だった。身長体重はわかるが、理解できない文字に困惑する。
記憶にないので、基本的なことでは無さそうだ。
――コレは一体……?
「簡単に言えば体型が数字化されています。大体の女性は気にしているので、勝手に見るのは敵対宣言ですね」
世の中の半分は女性だ。アリシアの言い方も間違ってはいない。……言われるがままに見てしまったのだが、私に見られたミラは平然としている。
――体形を気にしていないのだろうか?
「んふふ、魔法使いはエネルギーを魔力として発散できるのです! 他にはどんなことを聞きましたか?」
今日一番の自慢げな表情で胸を張るので、よっぽど自慢したいところだったのだろう。
楽しげな様子で知識補完を手伝ってくれる彼女に、特に気になっていたことを強く思い質問する。
――アリシアから魔物は迷宮から湧き出すと聞いたが、調整で湧き出さないように出来ないのだろうか?
これが出来れば、戦わずしてダンジョンからお宝を取り放題だ。
ミラは返答の内容を吟味しているのか、私の理解度を確かめるように聞き返しつつ、ゆっくりと答えてくれる。
「そうですね……。魔物とは何だと思いますか?」
――人間を襲ってくる化け物だと思う。
「んふふ、それだと化け物で良いはずです。実は魔物というのは、魔導文明の残した魔法の化け物なのです」
魔法の化け物を略して魔物という訳か。今日のオオカミも自然を生きるには変な色をしていたし、人為的に作られたと言われれば納得だが……。
――魔法にしては体がしっかりとしているような?
「そこは私たち迷宮調整士が余計な力を使わせています。魔物というのは本来の姿だと、本当に面倒な敵なのです。今日のオオカミも、魔力に反応して魔弾を撃つ自律攻撃魔法でしたが、感覚器を嗅覚や視覚頼りにし、余計な肉や行動を継ぎ足す事で弱体化していました。オマケに私が戦いやすいように水属性付きです。ちなみに貴方の言うようにお宝ばかりを回収すると、残った魔物が調整前の姿で飛び出してきますので、大変です! 魔物とはち会うように調整するのも、私たち迷宮調整士の仕事ですね」
ピョンと倒木を飛び越えたミラは私に振り返ると、先ほどまで戦っていた水色オオカミについて一気に種明かしをしてくれた。
彼女が事前に用意していた水の馬が、敵との相性バッチリだった理由を教えてもらい。感じていた違和感が解消される。
ダンジョンだけじゃなく、モンスターの調整もしているなんて凄いな。迷宮調整士……とても重要だ。
――迷宮調整士凄い!
「そうでしょう、そうでしょう! あっ、宝物庫を見つけました」
私の称賛に胸を張って応えていたミラは、大木の幹に扉を発見し、近づいていく。きっと宝物庫だ。
――鍵開けが出来るのだろうか?
「迷宮調整士の特権で、こんな事も出来ます」
ミラが短杖を軽くひょいと振ると宝物庫の扉の周りが崩れ落ち、扉がバタンと倒れた。奥にはしっかりと銀色の金属で補強された宝箱と出口の魔法陣がある。
――これはズルくないか?
「ちょっとした特権です。足がつくので売れないのですが……」
手をすりあわせながら箱を開けたミラは、光と共に手の中に現れた短剣を鞄へ放り込みつつ楽しげに振り返った。
「同様の理由でギルドナイトにお金は出せないので、後でお金より良い物を用意しますね」
――お金よりも良い物か……暇が潰せれば十分なのだが。
思わず漏れた意識を真剣な顔をしたミラに注意される。
「仕事には報酬が必要です。しかも、夜間の仕事には割り増しで報酬が支払われるモノなのです」
なるほど、と思わず頷いた私の様子に満足したらしい彼女は、出口の魔法陣に触れる前に振り返ると、確認してくる。
「調整の為、何度か周回したいのですが、まだやれますか?」
――もちろん! 周回なら任せてくれ!
アリシアと周回したので慣れている私は、胸を叩く動作をしながら了承の意を示した。やれるときはジェスチャーもしないと、アリシアとまたダンジョンへ行くときに困るからな。
ミラの横に並び一緒に魔法陣に触れると、私の視界は真っ白に塗りつぶされていく。
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