鎧騎士はギルドナイトになる

第9話 鎧騎士は試される

 私たちは暗い森の中にいる。ここは先ほどミラが調整したダンジョンなのだが、前回と違い石造りの通路では無いらしい。


 隣に立っているミラが短杖の先からまぶしい光を発して周囲を照らすと、水で構成された馬もついてきていたみたいで、何とも賑やかだ。


 ――しかし、暗いダンジョンは困るな……。


「光源を設置するのも迷宮調整士の仕事です。森なら光るキノコが良いでしょうか」


 私が強く思ったことを【マインドスキャン】の魔法で読み取ったミラ。彼女は律儀に返答しながら短杖を持っていない方の手で木の根元を指さした。


 すると、指さされた木の根元から、緑に発光するキノコがムクムクと生えてきた。他の木の根元にも次々と生えてくるキノコが、森の闇を切り開く。


 大した間を置かずに、闇に閉ざされていた森のダンジョンの様子は変わり、キノコの緑光に照らされた幻想的な森のダンジョンになった。


 キノコはまるで最初から生えていたかのように馴染んでいる。


 ――迷宮調整士はこんな事も出来るのか!


「んふふ。真っ暗では危険ですからね。光源の設置は重要なお仕事です」


 私の称賛を読み取ったらしいミラはニコニコと笑うと、光を消した短杖を持つ手を腰に当てながら、自信満々の様子で胸をはった。

 彼女の言うとおり暗い場所は危険だ。暗い場所で明るくしていると、こちらの場所がバレバレなので……。


 警戒する私を肯定するように、周囲の低木がガサガサと音を鳴らし、水色のオオカミを吐き出した。


 ――やはり来たか!


 驚きつつミラよりも一歩前に出て彼女を庇った私は、片方の手のひらを前にして構えた。


 遠吠えをあげた水色のオオカミは体の周囲にいくつかの水球を回転させると、こちらに連続で飛ばしてくる。


 ――飛び道具への対処は、飛んできた剣の時に覚えているから問題ない!


「大丈夫です。お任せください」


 水球を弾く為に身構えていると、一歩前に出て横に並んだミラが短杖を突き出し、更に一振りした。


 すると、こちらに飛んできた水球は空中で停止し、杖が振られるのに合わせて水色のオオカミに勢いよく返される。


 返された水球が連続で直撃した敵は、情けない鳴き声を上げて倒れた。


 ――相手の水球を奪ったのだろうか?


「そうです。無詠唱の魔法はコントロールを奪い易いので、返してあげました。さて、最初は私が貰いましょうか。『水よ切り裂け』!【ウォータースラッシュ】!」


 続いて彼女が宣言した言葉により、馬を構成していた水の一部がマス目状の刃に再造形され、倒れている敵への追撃に放たれる。

 全身でそれを受けた水色オオカミは刃と同じくマス目状に切り裂かれ、大きめの赤い石を残し空気に溶けていった。


 ――良い切れ味だ!


「ありがとうございます」


 彼女の補足説明で思い出したが、確かアリシアは私の放った青いピカピカを無詠唱のマジックボルトと呼んでいた。コントロールというのを奪えないように接射していたのか。


 喋れない私のマジックボルトや水色オオカミの水球が無詠唱の魔法ということは、名称を宣言して発動したミラの魔法はその逆で……。


 ――多分、詠唱のウォータースラッシュということだろうか?


「んふふ。呪文を詠唱するのが基本なので、その場合は普通に呼びます。だからウォータースラッシュと呼ぶのが正しいですね」


 握りこぶし程度の赤い石を拾いつつ、口元を押さえながらおかしそうに笑ったミラは、正確な呼び方を教えてくれた。間違えたことに少々恥ずかしさはあるが、ジェスチャーの繰り返しで何とか交流するより、本当に手軽だ。


 ――もっと魔法について話を聞かせてもらっても良いだろうか?


「ええ、もちろん構いませんよ。むしろ、普段は魔法について話せる相手が居ないので、大歓迎です!」


 言葉尻を強調した彼女は、顔にかかった金髪を払いながら、私の頼みを歓迎してくれた。普段の話題にも気を遣うなんて迷宮調整士は大変だ。


 ――聞きたいのだが、馬の水で魔法を……む?


「もう新手ですね。周辺確認に光を出したのは、良くなかったかもしれません」


 早速、魔法について聞こうと思ったのだが、新たな水色のオオカミが近くの低木を震えさせて飛び出してくる。ミラの戦いを見て思いついたことがあるので、隣で既に杖を向けている彼女に片手を上げて提案してみた。


 ――今度は私が戦ってみても良いだろうか?


「良いですよ。お手並み拝見です」


 私の提案を快く受け入れてくれた彼女に、軽く手のひらを胸に当てるポーズで感謝を示しつつ、飛び出してきた水色のオオカミに相対する。相手は早くも水球を用意しており、こちらへ撃ち込んできた。


 予想が正しければ、最適な行動を取るはずだ。ダメだったら無理矢理接近しよう。


 自分の体が戦闘時に取る行動の正しさを半ば確信しながら、私は飛来する敵の『魔法』に手のひらを当ててみた。


 衝撃は……無い。


 思った通り。私の体は勝手に動き出して水球を次々と回収していくと、指の間に元水球であろう水のナイフを形成し、自身でも認識出来ない速度で腕を振り払った。


 ――行け!


 私自身は気合いだけを込めた水のナイフは一瞬で飛来し、次の水球を用意していた水色オオカミを打ち砕き、穴だらけにする。穴だらけとなった敵は赤い石を残し、溶けるように消えていった。


「やりますね。魔物相手ならコントロール奪取の仕返しも無いですし、もし対人でも着弾までの時間が短いので、良いやり方です」


 彼女の称賛に軽く腕を上げて応えた私は、周囲の低木が次々に震えモンスターを吐き出すので、肩を落とした。


 ――魔法について聞くのは、もう少し後になりそうだ。


「そうですね。この数は歯ごたえがありそうです」


 気を取り直す為に腕を回して調子を確かめる私と、水の馬を水の大蛇に再造形して侍らせたミラは、既に体の周囲に水球を展開している水色オオカミの集団と激突する。


 ――迷宮調整士は仕事自体も大変だ!

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