第6話 鎧騎士は後輩冒険者になる
アリシアが顔の横で彼女の上半身が描かれたカードをヒラヒラさせるので、私は確信した。
――カードに描かれている騎士は、多分……私だ!
恐る恐るカウンターの端から飛び出したカードを引き抜いた私は、描かれている鎧騎士の上半身をまじまじと見つめる。
視界を邪魔していないと思い込んでいた兜は、思いっきり視界を邪魔していそうなガッチリとした物だった。
この兜にはもしかすると、なんらかの魔法がかかっているのかもしれない。
アリシアと何度もダンジョンを攻略しているときに聞いたのだが、装備品に特殊な力がある時は「魔法がかかっている」もしくは「能力
急にテンションの上がったアリシアが私の背中をバンバン叩いてくる。
――プレートアーマーをぶっ叩いて痛くないのだろうか?
「よ~し! これでアンタはあたしの後輩ね!」
ジンジンするのか軽く手を振りつつ偉ぶる先輩冒険者アリシアは、予定通り換金を進めるつもりのようで、ポーチから次々とポーションや魔石を引っ張り出して並べながら、こちらを見る。
「換金するわよ! 集めたお宝を売り払って山分けしましょ!」
――カウンターに置けば良いのだろうか?
今ひとつ、よく分からないが、片手を挙げて了承の意を示した私は、武器を束ねていたヒモを解くとレイピアを一本ずつカウンターに並べていき、最後に残った刃の潰れた剣をアリシアに返却した。
「ありがとう! 記念にあたしの部屋にでも飾っておこうかしら?」
「たくさん戦利品を集めてきましたね。アリシア、魔力酔いは大丈夫でしたか?」
「うぐっ、……ポーションを並べないと~」
戦利品の山を前にしたミラは、お馴染みになってきたカウンターを撫でる動きをしながら、友人の失敗を看破している。
耳を赤くしたアリシアは目を泳がせつつ、並べたポーションを綺麗に整列し始めた。魔力酔いを認めれば同時にハイテンションで帰ってきた事も認めることになるので、忙しい振りをして黙殺するつもりのようだ。
すると、驚くべき事に整列されたポーションや私の並べたレイピアに赤い数字が表示されていく。
例えば、最後まで粘って手に入れた魔法効果の二つ付いたレイピアには刀身に1G70Sといった具合に表示されている。
――不思議だ!
数字を見ているアリシアの目がキラッキラに輝いているので、大きな数字であることは間違いない。
「わあ……。一本で一ゴールドと七十シルバーになるんだ……。冒険者ってすごい……」
小声で呟いているがどうにも聞こえが良いらしい私の耳は、彼女の聞かせるつもりのない声を拾ってしまった。思った通り、かなりの額と考えて良いだろう。シルバーというのは、先ほどの冒険者登録でアリシアが惜しそうにがま口から九枚引っ張り出していた銀貨だ。
ゴールドというのは不明だが、銀貨が七十枚というのは凄そうだ。
慌てて自分の背負うレイピアも机に置いたアリシアは、最後に出たのと同じく1G70Sと赤く表示された数字に表情を引きつらせた。
「こちらが買い取り価格の一覧になります」
そんなアリシアへニッコリと笑ったミラは、カウンターが吐き出した紙を差し出してくる。紙には戦利品と価格の一覧が描かれている。これは一部の文字が読めない私でも何とか解読できそうだ。
――――
鋭い軽量のレイピア
1G70S
鋭い軽量のレイピア
1G70S
鋭いレイピア
70S
軽量のレイピア
1G20S
ポーション
5S×17=85S
下級魔石
2S×20=40S
合計
6G55S
――――
――なるほど、計算が入っているから理解しやすいぞ。
ゴールドはシルバー……銀貨百枚相当みたいだ。銀貨と大きな銅貨に比べて十倍の交換比率だから、それだけ金貨は高価なのだろう。
「じゃあ、予定通りにあたしのレイピアは抜くわ。あと、念のためにポーションも一本ずつ持っておきましょう。ポーションは軽傷を一瞬で治す優れもので、使い方次第では重傷を軽傷にできるわ」
それは保険に持って置いた方が良いな。もっと残した方がいい気もするが、ここは彼女に判断を任せよう。今日倒した程度の敵が相手ならば、感覚的に後れを取るつもりはない。
――何よりも魔力酔い止めの薬みたいに苦いと嫌だからな!
アリシアの言葉に私が片手を挙げて頷いたのを確認したミラは、紙に斜線を引いたりして戦利品の売値を計算してくれる。
「少々お待ちくださいね。合計四ゴールドと七十五シルバーで精算します」
素早く計算を済ませたらしい彼女がまたカウンターを撫でた。
「「失礼します!」」
しばらくすると、カウンターの奥にあるドアが開き、黒服の男達が現れて私たちに頭を下げた後、ズッシリとした麻袋と引き換えに丁寧に戦利品を回収していく。
「お二人は昇級まであと一歩です。昇級依頼を達成すればシルバーランクですね」
「よし! いけるんじゃないかと思っていたけど、いけたわね!」
――登録したと思ったらもう昇級!?
何らかの確信をしていたらしいアリシアをじっと見つめると、居心地が悪そうにしながら種明かしをしてくれる。
「累計二ゴールド稼ぐのが昇級の条件なのよ。冒険者登録直後のブロンズランクって試用期間みたいなもので、稼げる奴はどんどん昇級させてるってお客さんが言ってたわ。あたしの家は宿屋だから、お客さんに現役の冒険者が多いの」
――そういう事だったのか!
事情を理解した私は片手を挙げることで了承の意を示し、ミラから飛び出た言葉にアリシア共々首を傾けた。
「初回から周回する人は珍しいので、お二人とも将来有望な新人ですよ!」
「周回する人は珍しい?」
――周回する人は珍しい?
ミラの言葉を聞いて、私とアリシアは内心か小声かで違いはあれど、同時にオウム返しにして顔を見合わせた。
――本気で不思議そうな顔をしているアリシアに安心した。
私も兜をしていなければ似た表情を彼女に見せていただろう。
お互い、冒険者を管理する側からしても、珍しい冒険者になっていたらしい。
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