第4話 少女冒険者は鎧騎士と出会う

 ――アイツは本の挿絵から飛び出したような奴だった。


 急に現れて格好良くあたしを救ったと思えば、呪われているせいで常識知らず。


 じっくり話を聞いて頷く可愛らしいところがあるのに、敵を打ち倒す時は荒々しい。


 ――アイツはそんな不思議な奴だった。


 初めてのダンジョンから脱出し、あたしの心を覗いたかのように、アイツはもう一度行こうと誘ってきた。


 ――ちょっと使ってみたかったの。


「えっ? もう一回? し、仕方ないわね! 試し切りよ試し切り。不良品かもだし、ちょっとだけなら良いわよね!」


 まさか、あんなことになるとは思ってなかったあたしは、喜びを隠しきれずにその誘いに乗ってしまった。


 一回目の挑戦は楽勝だった。余計な道は無視して宝箱のある場所へ一直線。


 ――体は軽く。

 ――すり傷は治り。

 ――疲労はすぐに消えていく。


 ――これが話に聞くダンジョンの恩恵なのね!


 宝物庫の前にうろついているグリーンマンを見つけて振り返れば、後ろに立つアイツは刃が潰れてしまった元あたしの剣を預かり、見守ってくれている。


 安心したあたしはダンジョンの恩恵で強化された身体能力で、一足飛びに敵の手前へ飛び込むと、ナイフより軽く感じるレイピアの切っ先を突き込んだ。


 抵抗もなく貫かれた緑の影は、一刺しで消えていく。


 ――凄い切れ味! ダンジョンの武器ってこんなに凄いんだ!


「わぁ! すっごい切れ味! 鋭い軽量のレイピアってところ?」


 一瞬で勝負が決まったのを見て驚いているアイツに、あたしはダンジョン装備の凄さをアピールした。急に欲しいというよりも、それとなくアピールする方が良いとお母さんから聞いた事がある。


 ――売却額で買い取るつもりだけどね。


 初回と同じく扉の鍵開けをやり遂げたあたしは、出てきた木箱にちょっと残念に思いつつ、箱からポーションを取りだして後の分配がやりやすいようにメモをする。



 二回目も同じように一撃で勝ったあたしは、後ろで拍手して祝福してくれるアイツにレイピアを掲げて返事をした。


 ――腕を上げるのは肯定、首を振るのは否定と決まり事を作ったの。


「銀の箱は中々出ないの。ポーションも良いお金になるから無駄じゃないわ!」


 再び鍵開けをして茶色い箱からポーションを取り出すと、戦利品の内容をメモをしながら、のぞき込んでくるアイツに別に運が悪いわけじゃ無いと伝える。



 三回目はついに銀箱が出たのだけど……。

 銀箱を開くと手に重いレイピアが現れて危うく取り落としそうになり、どうしてなのかと鑑定のレンズでみる。


 鑑定レンズは宿屋の手伝いで一生懸命貯めたお金で買った。あたしの大事な財産だ。数打ちの剣三本分の価値がある。


 ――――


[鋭いレイピア]

 状態:

 鋭刃


 ――――


 ――思った通りね。


「同じレイピアが出てきたけど、とっても重いわ。レンズで見てみると軽量化の魔法がかかっていないみたい」


 レンズで確認できたことをアイツに伝えると、すぐに重いレイピアを持ってくれた。


 ――助かるわ。ありがとう。



 四回目は木箱で、慣れてきたあたしはレイピアと折れた剣を持っているアイツに、刃の潰れたあたしの剣を置いておくことを提案した。


「ポーションか。あたしの剣は一旦、ダンジョンの入り口に置いておきましょう?」


 ――この時、なんとなくあたしは長期戦を確信していたのかもしれない。


 #####


 結局同じ効果の装備が出るまで二十周も粘ったあたし達は、夕焼けに照らされた街道を歩きながら、街を目指す。


 途中からは大荷物でも軽々と敵を倒すアイツに任せきりだったけど、初めてのダンジョン探索にしては大戦果だ。


 元々一つずつ魔石を持っていたのに加え、レイピア四本にポーションが十六個、魔石も二十個集まった。


 ――山分けにしても! 大金になりそうだわ!


 帰り道、あたしは何でも出来そうな全能感と、ずっしりと重いポーチに詰まった戦利品にレイピアをぶんぶん振り回している。


 ――アハハハハ! これって! 魔力酔いね!


 自分で分かっていても止められないと聞いていたけど、確かにこの高揚感は止められそうに無い。


 ――こんな事なら! ちょっと高くても!


 ――魔力酔い止めの薬を! 買っておくべきだったわね!


 石畳の街道ですれ違う人々に生暖かい目を向けられている。


 夜間警備に行く冒険者からは、理解の視線を向けられる。

 ――理解しないで!?

 足早に進む旅人からはビックリされてしまう。

 ――酔い止めの薬もあるのに、珍しいでしょうね!

 親子連れからは子供に指差された。

 ――ああああ! 次からは酔い止めの薬を! 絶対に買うわ!


 街を守る石壁に備えられた頑丈そうな門に近づくと、当然だけど魔力酔いを門兵にとがめられた。

 あたしとアイツは門兵の待機小屋に連れて行かれ、無理をしてダンジョンに潜ってはいけないとお説教を受けた後、酔い止めの薬を飲まされる。アイツは呪いで兜も脱げないみたいで、植物の茎で臨時のストローを作って兜の隙間から飲む羽目になった。


 街で冒険者が暴れないようにする対策と優遇制度の一環ではあるけど、高めの薬をタダで飲ませて貰って申し訳ない。


 お説教から開放された後、一気に酔い止めの効果が現れる。


 ――ふぅ、落ち着いた。


 落ち着いてみると、一緒にお説教を聞いていたアイツが道中で全然魔力酔いしていなかったのに気が付き不思議に思う。


 もしかしたら、たくさんの呪いの中に魔力酔いに対抗するようなモノが、あるのかもしれない。


 ――まあいいか!


 あたし達が通るのを待っている門兵が見えたので考えを打ち切ると、ノールの街についての記憶も無さそうなアイツの反応を楽しみにしつつ、街の門を通り抜けた。



 ――――


[鋭い軽量のレイピア]

 状態:

 鋭刃

 軽量化

 詳細:

 魔法効果で切れ味が良く、羽のように軽い長めの鋼鉄製レイピア

 主に突き刺す武器。ガード付き。


 ――――



 ――あとがき――


 アリシア視点で周回の詳細を書いてみました。

 二人は早速ダンジョンを周回、大量の戦利品をゲットです!


 ここで裏話を……良いOP魔法効果付き装備が中々出ないのは、敵の弱さから分かるように低ランクな冒険者向けの低ランクダンジョンだったからです。(笑)

 一発で良いOP魔法効果付き装備を当てていた時点で運が良いのですが、もう一本と欲張った結果、日が暮れるまで頑張ることになりました!


 魔力酔いについては、次回の話で軽くアリシアが語ってくれます。


――あとがきのあとがき――


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 読んだ話数までは灰色になっていると思いますので、次の話数は色が濃い所です。後、最後に読んだ所には青いマーカーが付いていると思います。

 または、『続きから読む』機能を使うと、ここに戻ってこられます。


 もし良ければ『第5話 鎧騎士は街に来た』で、またお会いしましょう。


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