ほうれんそう
藤泉都理
ほうれんそう
いいか絶対フライトの時間に間に合わせろよ。
間に合いそうになかったら、俺はおまえを容赦なく置いていくからな。
洞窟の外で車に乗って待っている相棒の言葉。
何でも大好き、いや、愛していると言っても過言ではない歌手のライブが控えているらしい。
間に合わなくなる可能性も無きにしも非ずなのに、俺の仕事を手伝ってくれるんだから優しいやつだよな。
文句と悪態を垂れ流しながらも、ここまで連れて来てくれた相棒に感謝の言葉を送りつつ、私はこの難題を通過する為に集中した。
「私の身に宿れ!アナウンサー
トレジャーハンターでもあり、シャーマンでもある私は、この難題を通過する為に、持霊の一人である、アナウンサー
アナウンサー。
用意された原稿を正しい発音で正確に読み上げる事が大前提のその職業に就いている人間。
この難題を通過する為に、必要だった。
解読は済んだこの長文を噛まずに読む為に、とても必要だった。
(さあ、任せたよ!アナウンサー
「お任せください!」
「申し訳ありません」
「そんなにしょげるんじゃない。これも、価値のある体験だったさ」
「うう。申し訳ありません。僕が。僕が、アナウンサー志望のただの学生だったのに、超有望なアナウンサーだって、偽ってしまったせいで。長文を噛まずに読めなくて。扉の罠が。作動して。うう。相棒殿が、先に行ってしまわれた」
「いいんだ。失敗は成功の基って言うだろ。この失敗を恐れるなよ。次もまた君の力を借りるから。な」
「うう。はい。ありばどうございます!」
傍らで浮遊していたアナウンサー
いや、姿を消してしまったのではない。
姿が見えなくなったのだ。
巫力が切れてしまったのだ。
「ふふ。これも。価値のある、体験、さ」
罠が作動しては崩れ落ちる洞窟から命からがら這い出ては、岩がゴロゴロゴロゴロ転がっている中を、独りで脱出して、空港までひたすら歩き続ける。
これもまた、価値のある、体験。さ。
「ああ。もっと。巫力が、あれば、なあ」
(2024.5.2)
ほうれんそう 藤泉都理 @fujitori
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